エルダー2022年9月号
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広い視野で後輩に質問する失敗してもいいんだ誤りに気づくことができます。状況が切迫していれば、ただちに解決策を示すことが求められますが、そうでなければ少し時間をかけて考えさせるという判断をします。場面に応じて即座に判断ができるのも、経験があるからこそ可能になります。教えない教育を実行するには、指導する側に忍耐が求められます。後輩がもたもたしているのを見ると、ついつい手を出したくなります。でも、そこでぐっとこらえて待つのです。後輩が堂々巡りに陥って正しい道筋を見出せない場合、的確な質問をすることで迷路から助け出すことも必要です。「この点をこういう角度から見るとどうなるかな」とか「先日こんなことがあったよね。それとの関係で考えてみるとよいのではないかな」といった質問をすることで、後輩の視点を変えてやります。すると、解決の方向がみえてくるのです。化学メーカーB社の中央制御室で働く方が次のような話をしてくれました。「後輩がオペレーターとして機器の操作をしているときに、後ろに立って状況を見ています。すると、いくつかの計器が通常とは異なる値を示すことがあります。コンピュータ制御ですから、ある一定の値を超えると警報が鳴って異常を知らせてくれます。でも、そのときは、警報が発せられるほどの異常値ではなかったので警報は鳴りませんでした。私は、長年の経験から何らかの異常が起こりかけているのがわかりました。危険な状態であればすぐに手を出しますが、そのときは切迫した状況にはならないことが予測できたので、後輩に質問することにしました。﹃これら三つの計器の値を見て、何か思うことはないかな?﹄。後輩は一生懸命考えていましたが、﹃わかりません﹄という答えが返ってきました。さらに別の質問をして対話しているうちに、警報が鳴り始めました。後輩は、ただちに異常対処の手順にしたがって、正常な状態に復帰させました。一連の対応が終わったとき、なぜ私が質問したのかを後輩に説明しました。私が三つの計器の値を見て何か起こっていることを予測したのはなぜかという点について、そのときの私の思考経路を解説しました。後輩は、それを熱心に聴いてくれました。その後輩は、﹃目の前の値だけに注目するのではなく、常に全体を視野に入れて機器を操作することの重要性がわかりました﹄といってくれました」広い視野でものごとをみることが大切だという点はみんなわかっています。しかし、"言うは易く行うは難し"で、対応しなければならない事柄が一気に押し寄せてくると、視野が狭くなってしまいます。そのようなとき、経験を積んだ高齢社員が緊急度を判断し、「ここは時間をかけても大丈夫だから、しっかり考えよう」といって後輩を落ち着かせ、もっとも望ましい対応策に導いていきます。高齢社員だからこそできる指導方法だといえます。したくない」と考える人が増えているようです。失敗したくないので、マニュアルを求めてくるという話をよく聞きます。だれしも失敗はしたくありません。失敗すると時間もコストもかかり、仲間に迷惑をかけてしまいます。不注意で失敗するのは論外ですが、必要な失敗はあるはずです。できるかどうかわからないことに挑戦しなければ新しいものは生まれません。元気がなくなっている日本経済を活性化するには、怖いけれども挑戦することの意義を問い直す必要があると思います。す。大きな失敗もあれば、ささいな失敗もあり最近の傾向として、「仕事をするうえで失敗高齢社員は、たくさんの失敗を経験していま2022.98

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