エルダー2022年9月号
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らっていると考えているので、相互の信頼関係がこの仕組みの大前提となっています」(熊谷取締役)深谷さんは、稼働時間の自己申告にあたって、「自分の技術レベルと課題解決・作業などの技術難易度を勘案して自主的に調整を行います。信頼関係をもとに、体感的にも違和感のない適正な相場観で、会社も働く側も納得がいく対価とする調整ができていると思います」とつけ加える。また、「お互いに納得できる対価とすることが、仕事の質を向上させようというモチベーションにもつながります。シニア技術者を年齢で排除したり、買いたたいたりする風潮があるなかで、労働時間のみではなく、技術力そのものを評価するフォトシンスの姿勢は、シニア技術者を有効に活用する面で大きな意義があると思います」と強調した。上下関係のないフラットな関係が若手とのコミュニケーションを円滑にする深谷さんが若いベンチャー企業になじんで働いている姿を見て、読者のなかには「いったいどうやってうまく溶け込めたのか」と、興味を持たれた方もいるのではないだろうか。若い世代の人たちと一緒に働くうえで心がけていることについて、深谷さんは次のように話す。「仕事をするうえで、上下関係のないフラットな関係であることが重要でしょう。年齢でも上下を意識すれば、コミュニケーションに影響してきます。いままでの職業経験のなかでも、若い人たちと接して仕事をしたことがあって、それが楽しかったという感覚があったのです。そんなこちらの心の持ちようも、案外大きな要素かもしれません。フォトシンスで仕事をするにあたっては、自分の知識・経験が活かせるものは、可能なかぎり対応することに努めてきました。また、できるだけ提案型の対応を心がけました。1を聞いて、10をカバーするような気持ちで臨んでいます」一方で、「技術」という共通言語があるからこそなじめたという考え方もあるが、それについて深谷さんは、「『技術』というと、姿・形が決まっているものと考えられがちですが、それこそスタートは雲をつかむような話で、いろいろと模索しながら進んでいきます。そういう意味では、エンジニアでも事務系のホワイトカラーでも、仕事に臨むうえでの考え方に大きな違いはないのではないでしょうか」と答えてくれた。深谷さんは、NECという日本の大手電機企業で、新卒から定年まで勤め上げた古典的サラリーマンエンジニアといえるかもしれない。一方で、同じ会社のなかにあっても、さまざまな技術分野にたずさわり、ものづくりの設計から生産、設置まで一貫して経験するとともに、技術の周辺業務にも触れて、経験や知識の幅を広げてきた。深谷さんは、「仕事を長く続けるためには、楽しくなければなりません。そのためには、自分の得意な領域、興味のある分野に集中することが好ましいと思います。自分の場合は、アナログ回路設計という分野で専門知識と設計技術力の高度化に取り組み、さらに、関連する知識や経験のすそ野を広げるよう努めました。これが、チャレンジ精神を失わず、モチベーション維持につながっていると思います」と語っている。らえて、どう自身の技能・知見として落とし込めるかが重要だとの考え方だ。行ってきた深谷さんの経験からは、異文化体験と人材育成の経験の重要性も見えてくる。短くない定年後を、高齢者が元気に意欲をもって働き続けるためには、チャレンジはつきもの。チャレンジに向かっていけるバックグラウンドを形づくるための努力が、定年後の活躍のための処方箋といえるだろう。企業内の異動であっても、それを前向きにとNECを定年退職後に海外での人材育成を2022.918

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