エルダー2022年9月号
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第3回高齢者の労働災害発生率はほかの世代より高くなっています。仕事の経験年数の短い若年者の発生率も高いのですが、長年同じ仕事に従事して経験豊かな高齢者の場合、注意していても体がついていかないなど高齢化の影響があらわれます。また、高齢期になって慣れない仕事に就けば、発生率が高まる恐れがあります。製造業では、労働災害根絶を目ざした取組みが長年にわたってなされてきました。工場の労働災害は一歩間違えると死亡事故に直結し、甚大な被害を与えるからです。一方、福祉関係のようなサービス業は製造業に比べて労働災害防止の取組みが途上にあるようです。「工場のように大きな機械もないので死亡事故など起きるわけがない」と油断していることはないでしょうか。たとえ軽微な事故でも被害者のダメージは大きく、特に高齢者では回復までの期間も長く、職場への影響ははかりしれません。労働災害を防ぐには、発生原因を考えて対策を取らねばなりません。高齢者の特性から考えてみましょう。体力や筋力が低下している高齢者が重量物を運ぶ最中に足もとに落とす危険性を考えて、重い物を持たせず機械で運ぶ、高齢者が歩くときは足が上がらなくなって段差につまずいて転倒しかねないので床の段差をなくして物も置かない、集中力が持続しづらいので危ない作業は長時間させない、などの対策が必要です。また、高温や多湿、騒音などの職場環境が高齢者の体調や集中力に悪影響を及ぼし、労働災害が発生することも考えられますので、職場環境の整備に努めるべきです。職場の事情に通じていない者も起用して客観的な目で「ヒヤリハット」の事例を集めて再発防止ノウハウ蓄積と職場環境整備に努め、朝礼や研修でみんなが学ぶ風土づくりが労働災害を防ぎます。高齢者に安全な職場の実現は労働災害防止の第一歩です。プロフィール29エルダー内田 賢(うちだ・まさる)東京学芸大学教育学部教授。「高年齢者活躍企業コンテスト」審査委員(2012年度〜)のほか、「70歳までの就業機会確保に係るマニュアル作成・事例収集委員会」委員長(2020年度〜)を務める。労働災害発生率が高い高齢者世代高齢者の特性をふまえた職場環境改善の取組みを教えてエルダ先生! こんなときどうする? けがこそしなかったものの、職場でちょっとつまずいてしまったり、何かにぶつかってしまったりという経験に、心当たりのある人は少なくないのではないでしょうか。加齢で身体機能が低下している高齢者の場合、この“ちょっとしたつまずき”で転んで骨折をしてしまったり、若いころよりもその回復に時間がかかってしまったりすることがあります。高齢者が安全・安心に働くための職場づくりについて、東京学芸大学の内田教授に解説していただきました。内田教授に聞く高齢者雇用のポイント解 説解 説解 説解 説マンガで学ぶ高齢者雇用集中連載どうすれば高齢社員が安全に働ける職場になるの?

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