エルダー2022年9月号
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みに重ねてきたつもりですが、実は電話が苦手でした。登録していた派遣会社にも「なるべく人と話さなくてよい職種を希望」と伝えていたほどです。それがどこでどう間違ったのか、「ご予約センター」の業務に就くことになったのですから、ご縁というのか、人生のおもしろさはこういうところにあるのかと思ってしまいます。入社後3カ月間ほど研修を受けましたが、電話嫌いの私を指導してくれた上司は苦労されたことでしょう。指導のおかげで実際に現場に出てみると、思いのほか落ち着いてお客さまとお話しすることができました。ただ、緊張しながら言葉を選んでお話しするので、帰宅後は電話が鳴っても取りたくないほど疲れ果てました。それでも、経験したことのない仕事は脳を大いに刺激し、本業にも効果がありました。電話応対の仕事は数をこなすなかで失敗したり、次にはその失敗を活かすための努力をしたりと、3年経ったいまも緊張の連続です。これまではレストランの従業員の方が予約を受けていましたから、お客さまと直接接することもあり、受話器の向こうの顔が想像できる強みがありました。ただ、「ご予約センター」の私たちは、言葉だけで膨大な情報をお伝えしなければなりません。しかも情報は日々更新され、その内容も店舗ごとに違います。現在は10店舗ほどですが、名古屋の店舗についても私たちがお答えしています。名古屋の道案内などわからないことも多く、早口でいろいろお話しされますと冷や汗が流れます。心がけているのは、お客さま一人ひとりに一期一会の気持ちを忘れないということです。仮に、一日30本の電話を受けるとすると、れの席もあれば法事もあり、大切な接待の場合もあります。一人ひとり状況が違うことを把握し、例えば食物アレルギーなどについてはしっかり情報交換をする必要があります。短い時間でできるかぎりお客さまの気持ちに寄り添いたいといつも考えています。例えば「お食い初め」の席を予約される方も多いのですが、若いお母さんの緊張した声と一緒に赤ちゃんの泣き声が聞こえてくると、見えないはずの二人の姿が見えてくるような気がするから不思議です。最近では電話応対にも少しは余裕が出てきましたが、応対のプロになるのではなく、素人のままでよいと私は思っています。というのも、一生懸命な素人でありたいと思うからなのです。りますが、私は週4日、14時半から19時半までの勤務です。スタッフは20人ほどで、私より高齢の方も数名います。一昔前であれば、電話応対の仕事は若い女性が適任と思う人もいたかもしれませんが、電話であってもそこに人形町今半の世界観を展開しなければならず、私たちのような高齢者が応対することで、お客さまに安心していただけるならこんなに嬉しいことはありません。生後3カ月の「お食い初め」のお子さまが、次は一歳で「一升餅」を背負い、その次は七五三で晴れの席をご予約いただくこともあり、お客さまと一緒に子どもたちの成長を喜び合えるこの仕事はやりがいがあります。自分自身がまだまだ成長できることを知りました。その成長が回り回ってデザイナーの部分にもはっぱをかけてくれます。スキルを上げることは高齢になるとむずかしい側面もありますが、一生成長し続けることは可能です。せっかくできたご縁を大切に、健康で楽しく働き続けるために明日も受話器を握ります。「ご予約センター」は10時から受付が始ま「ご予約センター」の仕事を始めて、私は電話が苦手というものの、長年、クライアントと直接仕事上の交渉をしてきたのだから、そのコミュニケーション能力は高く、むしろ電話応対は適任だった。相澤さんの謙遜がほほえましい。一期一会の気持ちで生涯現役を目ざして30人のお客さまと出会うことになります。晴高齢者に聞く37エルダー

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