エルダー2022年9月号
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執行役員の労働条件の変更について2執行役員の地位については、管理監督者としての地位をあわせて有していることが多いほか、処遇についても一般的な労働者よりも厚遇されていることも多くあります。どちらかというと取締役などの役員と近い立場にある者として社内では扱われることもあります。そのため、会社によっては、執行役員の処遇に関する規程を定めて、通常の労働者が適用される賃金規程とは異なる内容で整理されていることもあります。賃金規程において想定されている等級や賃金テーブルなどの範囲外で処遇することや賞与および退職金の考え方が異なる場合もあります。このような執行役員が定年退職に至らなかった場合には、規程で定めた処遇から通常の労働者としての処遇に戻すことができるのかが問題になります。ここで、執行役員に対する労働条件の変更が争点となった裁判例を紹介したいと思います。事案の概要は、常務執行役員を務めていた労働者を、会社が、部長に降格をさせて、月額120万円の報酬から月給45万円程度まで減額したことの効力が争われた事案です(東京地裁令和2年8月28日判決)。この会社では、元々部長職であった労働者を常務執行役員に任命し、報酬を43万円程度から高額の報酬へ変更して、最終的には月額120万円に及んでいました。執行役員制度については、執行役員規程を設けており、執行役員として1年間の任期をもって退任する旨定めたうえで、任期満了の都度、取締役会で議決して、再任していました。執行役員規程のなかには、賃金に関して、「執行役員の報酬について給与規程に準じるものとし、役付執行役員の報酬については、職務の内容(遂行の困難さ、責任の重さ)並びに従業員給与の最高額及び取締役の報酬を勘案して、その都度決定する」と規定しており、通常の労働者の等級等とは異なる決定がなされていました。そして、当該執行役員規程についても、就業規則と同様に周知がされており、就業規則の一部として拘束力を有すると判断されています。その結果、執行役員規程の位置づけとしては、「執行役員規程が執行役員の待遇について別途の規程を置いているのは、豊かな業務経験を有し、優れた経営感覚の下、高い識見をもって職務に当たることが期待されている被告の執行役員として選任された被告従業員に対し、その任期中、役付の有無に応じ、その責任等に応じた特別待遇をもって報いる趣旨のものと解せられる」として、「同規程は、執行役員から退任した従業員に対して退任後も同様の労働条件をもって保障することを含意する趣旨のものとは解せられず、あくまで執行役員在任中における特別待遇を保障する趣旨のものと解するのが相当」とされました。て再任されることなく退任した場合には、従来の職務に戻ることとなり、執行役員就任前の部長職となり、処遇もそれに則した条件となることが肯定されました。労働者からは、重要な労働条件の不利益変更に該当し、労働者の自由な意思がなければ有効に変更できないといった主張もなされていますが、執行役員規程が労働条件の内容となっており、退任時に処遇が就任前の条件に戻ることを含めて予期しておくべきと判断されており、退任時の処遇も含めた形で労働条件が形成されている点を重視しています。執行役員の処遇を規程として定めて、周知しておかなければ、退任時の処遇がどういった位置づけになるのか不明確になるおそれがあります。①執行役員規程が周知されていたこと、②執行役員が任期制となっており退任する可能性が想定されていたこと、③執行役員の処遇の根拠が、職務の内容を考慮したものであることや、それにふさわしい人材がいかなる労働者であるのか(豊かな業務経験、優れた経営その結果、執行役員としての任期を満了し執行役員については、この裁判例のようにまた、今回紹介した裁判例の特徴として、43エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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