エルダー2022年9月号
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働時間は8時間がシフト制の最低条件である」として、シフトが削減された部分に相当する賃金の支払い等の求めに対して会社側が債務不存在の訴えを起こした事案です(シルバーハート事件、東京地裁令和2年11月25日判決)。労働者と締結している雇用契約書には、始業・終業時刻および休憩時間の欄に「始業時刻午前8時00分、終業時刻午後6時30分(休憩時間60分)の内8時間」との記載のほか、「シフトによる」旨の記載がありましたが、このシフトの内容については特段の記載はなく、労働者が履歴書において週3日を希望する旨記載があった程度でした。シフトの決定方法は、「前月の中旬頃までに各従業員が各事業所の管理者に対し、翌月の希望休日を申告し、各事業所の管理者は希望休日を考慮して作成したシフト表の案を、前月下旬頃に開催されるシフト会議に持ち寄り、話し合いを行う。各事業所の人員が適正に配置されるよう、人手が足りない事業所には他の事業所から人員の融通を行う等の調整を行った上、シフトが正式に決定」されていました。また、事業の特性として、介護事業所のシフトには、管理者、相談員、介護職、運転担当、入浴担当、アクティビティ担当などの役割があり、少なくとも1人ずつ配置する必要がありました。このようなシフトの決定方法としては、前月中に希望を募って、必要な役割の人員をシフトに割り振って、最終的なシフトを決定するというものであり、一般的なシフト決定方法といってもよいように思います。裁判所としては、シフト制の内容に関する合意について、「雇用契約書には、手書きの『シフトによる』という記載があるのみであり、週3日であることを窺■わせる記載はないこと」、過去の出勤状況についても「1か月の出勤回数は9回〜16回であり、…勤務開始当初の2年間においても、必ずしも週3日のシフトが組まれていたとは認められないことからすると、固定された日数のシフトが組まれていたわけではなかった」としたうえ、「他の職員との兼ね合いから、被告の1か月の勤務日数を固定することは困難である」として、週3日、1日8時間という内容で合意されていたとは認めませんでした。しかしながら、だからといって、急激なシフトの削減が許容されるかという点は別問題であり、「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得る」としたうえで、「少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については、同年7月までの勤■■務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り、シフトの決定権限の濫用に当たり」、本件では、勤務日数を突然1日まで削減したとき以降のシフト削減が権利濫用に該当する違法なものであると判断されています。勤務時間に対応する賃金として、直近3カ月間の平均賃金について、民法第536条2項に基づき、賃金を請求し得るとされました。の削減自体は可能であること。ただし、その程度が極端である場合には違法な権限行使として賃金相当額の請求が肯定される場合があるという点です。シフトを減少せざるを得ない理由はどういった点にあるのか説明し、期間がどの程度になるのかなどもしっかりとコミュニケーションをとったうえで、権利の濫用とならないようにシフトの削減を実施することが望ましいでしょう。結果として、不合理に削減されたといえる本件のポイントは、シフト制では、シフト45エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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