エルダー2022年9月号
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社内診療所は健康管理を意識づける手伝い役た。このケースでは医師と診療所スタッフ、社員本人の3者で復帰に向けたプログラムを策定したのだが、その際、診療所スタッフからの助言が大きかったと山田さんは語る。「スタッフのみなさんが、ご本人の症状や状況を実によく聞き出し、それに合わせたプログラムを策定できたため、無理なくスムーズに職場復帰してもらうことができたと思っています」こうして本人の意向を上手に引き出すとともに、在宅治療の場合には適度にコミュニケーションを取ることも大切だと山田さんはいう。特にメンタル不調の場合、身体は動けるため、ともすれば「サボっていると思われるのではないか」と考えてしまうこともあるので、頻繁に連絡すると「監視されている」と取られかねない。反対に連絡を取らないと孤独になって「自分は会社や仲間から必要とされていないのではないか」という不安感にかられてしまう。支援を受けた前述の社員(匿名)も、「定期的に連絡を取っていまの状況を聞いてくれるだけで、会社とのつながりを持つことができ、そのおかげで治療に専念して着実に復帰しよう、と前向きになれました」と語ってくれた。同社の社内診療所では6人の医師が日替わりでそれぞれの専門科を担当し、保健師3人、看護師1人というスタッフが常駐している。両立支援における診療所の役割について伊藤さんにうかがった。「まずは『休務の期間を十分に確保しておりますので、しっかり病気を治して、それからお仕事をどうされるか考えてください』、とお伝えします。そのうえで主治医から復帰か、仕事と両立かの判断があった時点で、業務を熟知している当診療所の産業医が業務に復帰してよいかどうか判断します。この二つの判断が揃った段階でやっと職場復帰となります」と伊藤さん。その後半年から1年ほどは定期的に診療所にて産業医との面談を重ねることになる。もちろん両立支援だけではなく、仕事の合間に立ち寄って気軽に相談する社員もいれば、上長から「調子が悪いなら診療所に相談に行ったらどう?」とうながされて来所する社員も多いという。なかには「お腹が痛い」と来所した社員を触診したらよくない兆候があったため、すぐに病院での受診をすすめたところ盲腸が発見され、処置の結果、早期の職場復帰が可能となったケースもあるという。「私たちはあくまでも後方支援ですので、経営者の方々はじめ、働いているみなさんが主体となって、健康管理について常に意識していただけるよう、相談しやすい雰囲気でお手伝いできるよう心がけています」と伊藤さん。「病気になってはじめて、制度のよさがわかったという声をよく聞きます。そして制度を利用して復帰したら、会社に恩返しをするためにもっとがんばりたい、といった声を聞くと本当に嬉しいですね」と山田さん。これからも社員を大切にする社風に根ざした使いやすい制度を整備させていく決意だ。社内診療所のスタッフ(写真左から)渡辺保健師、福岡保健師、濵■■嶌■■看護師、伊藤保健師47エルダー病気とともに働く

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