エルダー2022年9月号
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「郷土料理」は高齢者にしかできないテーマ利用者のQOL向上に貢献する「介護助手」考えました」(柳原さん)このような考えのもと、松山地域連携協議会は事業構想にあたり、シルバー人材センターを訪れる相談者や、これまでかかわりのあった元経営者・役員など、さまざまな高齢者から、それまでの経験・職歴・やりたいことなどについて聞き取りを行い、本人の意向を実現する具体的な仕事や、対価を得て活動できる仕組みを検討していった。ユニークなのは、その仕組みづくりに関する現状分析や企画立案を高齢者本人に依頼し、その本人がつながりのある企業の協力を得たり、また友人・知人を誘い、仕事の具体化や組織化を進める点だ。高齢者自身が「主人公」となり、そのサポートを協議会事務局が務める形で事業化が進められた。そのなかから生まれた代表的な取組みが、松山の郷土料理の普及に関する事業と、介護助手の育成・就労事業である。「郷土料理」の普及事業は、複数の高齢者によって「まつやま郷土料理研究会」を立ち上げたことから始まった。高齢者による起業である。松山の郷土料理に詳しい世代は、すでに80歳を超えており、その腕を発揮したり伝承したりする場がなく、そのままでは埋もれてしまう状況にあった。きっかけとなったのは、「地域の高齢者のためになることがやりたい」という思いを持った、愛媛調理製菓専門学校の元理事長の存在だった。彼女は「松山市食生活改善推進協議会」の元会長、道後温泉の旅館協同組合関係者、調理師会関係者、大学の農学部の研究者など、さまざまな人脈を持っていた。また、事業化するうえで欠かせない販路についても、地元企業の経営者とのつながりを活かすことで開拓できたという。「高齢者の方々が持つ豊富な人脈を活かすことによって、かえって事業化がスムーズに進む面もあります」と柳原さんは指摘する。こうしたネットワークを活かして多様な活動を展開しており、2017年度から毎年開催されている「まつやま郷土料理マイスター養成講座」では、毎年10人ほどのマイスターを認定。ここで養成されたマイスターが「松山の食文化の伝承者」となり、地域や学校などで郷土料理の講師として活躍している。また、松山市の伝統野菜である「伊予の緋■かぶ」を使った「緋のかぶら漬け」の商品開発、郷土料理レシピ集の制作、東京での郷土料理の試食会開催など、さまざまな活動を展開。なかには、念願だった農家レストランをオープンしたマイスターも存在する。「介護分野」における高齢者の就労の可能性について、柳原さんは次のように話す。東京で開催した郷土料理の試食会の様子高校生に郷土料理のつくり方を教えるマイスターまつやま郷土料理研究会が商品化した「緋のかぶら漬け」2022.962

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