エルダー2022年9月号
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はじめに法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 教えない教育藤村博之高齢社員の持つ能力を使って後輩を支援する   7高齢社員は、長い職業生活のなかでさまざまなことを経験し、知識も積み重ねてきています。そういった知識・経験を活かして、業務遂行をになうことは必要ですが、高齢社員に求められる役割はそれだけではありません。課題解決に悩んでいる後輩の相談に乗り、対話を重ねることで、絡みあった糸をほぐすように解決策を見出す支援をすることも大切な役割です。高齢社員は経験豊富ですが、それが現在も役に立つかどうかについて遠慮があります。「若手の相談に乗るのはいいけれど、20年前、30年前に経験したことをもとに助言をしても大丈夫だろうか」というためらいがあります。それを払拭するのは人事担当者の役割です。その人が経験してきたことを整理し、「この部分は、いまでも十分に通用性があります」とか「この部分は、時代の変化とともに重要性が下がってきていますから、あまり強調しない方がよいでしょう」といった評価を知らせておくと、高齢社員は安心して自分の経験を後輩に伝えられるようになります。本稿では、高齢社員による後輩への支援を「教育訓練」と「課題解決」の二つの分野に分けて検討します。精密小型モーターを製造しているA社は、教育訓練の方針として「教えない教育」を掲げています。教育とは、教え育むことですから、言葉の意味からすると矛盾しています。この方針の意味は、「最初からすべてを教えない。まずは自分で考えさせる」というものです。現場で作業していると、いろいろなことが起こります。マニュアルは整備されていますが、マニュアルに書かれていないことも起こります。そのようなときに、先輩社員が指導することになりますが、いきなり解決策を示すのではなく、「君ならどう考える?」という質問を発します。自分の頭で状況を分析し、解決策を考えさせるのです。そこで、正しい解決策にたどり着くこともあれば、間違ってしまうこともあります。でも、それでよいのです。まずは自分で考えることをA社は大切にしています。齢社員です。これまでの経験から、後輩がなぜつまずいているのかを予測することができます。自分も通ってきた道だから、後輩の思考のこのような指導において力を発揮するのが高特集活かしてますか? 高齢社員の能力・経験エルダー総 論

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