エルダー2022年10月号
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SNSで個人的な見解や体験などを発太田 信し、「いいね!」を気にする人が増えるような世情を背景に、以前より「承認欲求」への関心は高まっています。有名な心理学者マズローの欲求階層説※で知られているように、承認欲求は本来、人間だれもが持っている正常な欲求の一つで、自分自身を価値ある存在と認めたい「自尊」の欲求と、他人から自分の能力や個性などを認めてもらいたい「尊敬」の欲求の二つの面があります。承認欲求があるからこそ人間は努力するし、健全に成長していく。ほかの人と協力したり助け合ったりする動機も、承認欲求から生まれます。人の欲求のなかでは最強のものとさえいえます。これまで私は、承認欲求について多くの実証研究を行ってきましたが、上司・同僚や取引相手など周囲から認められた人、自尊感情や自己肯定感の高い人は、そうでない人に比べて意欲が高く、情緒が安定し、仕事や学業の成績も高い傾向が見られます。太田 員が厨房で悪さをする様子を撮影して動画をSNSに上げたり、公共の場で危険な行為や破廉恥な行いをして動画サイトに投稿するなどの事件が相次ぎました。そんな行動をする人には、「自分の存在を世間に知らしめたい」、「注目を集めたい」という動機が隠されていることがあります。承認欲求の負の側面が病的な形であらわれた例です。そこまで極端ではなくても、容姿、仕事の業績、学歴、社会的地位など、自分が誇りに思っていることを自慢げに語る、あるいは逆に、失敗談を語るかのように見せかけて本音では武勇伝を誇示したい意図が見える言動そうですね。数年前に、飲食店の従業も、承認欲求がゆがんだ形であらわれたものといえます。動とは片づけられません。私たちを含めてだれもが陥りやすく、社会に広がっている負の側面があります。自分で気づかないうちに承認欲求にとらわれ、制御できなくなって苦しむ人が、特に日本社会では多く見られます。私は「承認欲求の呪縛」と呼んでいます。られ、成長し、その結果として昇給や昇進、好ましい対人関係の構築など、有形無形の報酬を獲得できます。まさに、いいことずくめなのですが、何かがきっかけで、今度は獲得した報酬や築き上げた人間関係を失うことをおそれ、その思いにとらわれた状態から容易に逃れられなくなります。太田 をMVPとして表彰し、受賞者にはかなり高額の賞金を贈っていました。ところが、受賞者の多くが、受賞後短期間で次々と離職するようになったのです。その理由として、いくつか仮説は成り立ちますが、一番あてはまりそうなのが、「MVPとして表彰されたからそれを一部の特別な人にあらわれる問題行人は承認欲求が満たされることで動機づけある病院で、もっとも模範になる職員―最近、「承認欲求」という言葉をよく耳にします。―そんなプラスに作用するはずの承認欲求が、最近は負のイメージで取り上げられることが多い気がします。―具体的には、どういうことでしょうか。「承認欲求」は人を動機づける最強の欲求「認められたい」が成長の源2022.102※ 欲求階層説…… 人間の欲求は、「生理的欲求」→「安全欲求」→「社会的欲求」→「承認欲求」→「自己実現欲求」という5段階のピラミッドのように構成されており、自己実現に向かって成長するとした理論同志社大学 政策学部 教授太田 肇さん

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