エルダー2022年10月号
53/68

裁判例の紹介考えられています。例えば、正社員全体ではなく、自身と同じような業務に従事している正社員に限定して比較するといった方法がとられます。定年後再雇用においては、嘱託社員と同様の業務を行っている労働者と比較することが考えられますが、そのような労働者がいない場合には、定年退職前の自分自身(正社員であったときの自分自身)を比較対象とすることができるかが問題となります。次に、不合理と認められる相違は、「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」判断されるものとされています。ここでは、①業務の内容および責任の程度、②職務の内容および配置変更の範囲、③そのほかの事情、といった考慮要素が整理されており、これらの要素を考慮して、不合理か否か判断されることになります。2東京地裁平成30年11月21日判決(日本ビューホテル事件)は、役職定年を経たのちに定年退職した嘱託社員の処遇について、同一労働同一賃金の観点から不合理な賃金格差となっていないかが問題となった事案です。まず、比較対象とする通常の労働者について、「原告が措定する、有期契約労働者と無期契約労働者とを比較対照する」と判断して、原告となった労働者が比較対象となる労働者を選択できることを肯定し、原告が主張していた「定年退職前の原告自身」との比較を認めています。ただし、「他の正社員の業務内容や賃金額等は、その他の事情として、これらも含めて労働契約法第20条所定の考慮要素に係る諸事情を幅広く総合的に考慮」する※ことも認め、最終的には、職務内容が同程度の正社員の賃金との比較を③その他の事情として考慮する方法を採用しています。次に、賃金制度に関して、「正社員に係る賃金制度を俯瞰すると、長期雇用を前提として年功的性格を含みながら、様々な役職に就くことを想定してこれに対応するよう設計されている…、役職定年後の年俸は…、上記の賃金制度の一部を構成するものとして同様の性格を有する」として、役職定年制度後の処遇も含めて、定年までの間は年功的性格をふまえた制度とされました。他方で、「定年退職後の再雇用に係る嘱託社員は、退職金の支払を受けて退職した後に新たに有期労働契約を締結して再雇用された者であり…、長期雇用を前提とせずかつ原則として役職に就くことも予定されていない。また、…嘱託職員の職務内容等は軽減され配転等の可能性も限定されていて、加齢による労働能力の低下等を見越して年齢に応じて賃金額が漸減するものの、業績等によってはその額が変更され得るという仕組み」とされ、年功的性格が払拭されていると判断されています。年後は年功的性格が払拭されているという要素は、賃金の差異に関する重要な要素として考慮されています。金と比較すると約54%まで減額されていました。ただし、定年後の再雇用者について、高年齢雇用継続基本給付金や老齢厚生年金の支給開始年齢に達することを賃金決定に考慮することを認め、給付金を考慮した賃金の差異が63%であることから不合理性を否定しています。ては、役職定年前から役職定年の際にも業務内容が変更(責任も軽減)され、定年退職後の再雇用においては営業活動のみに従事する立場に変更されています。さらに、配転についても、定年退職後の再雇用後には実施が予定されていない立場に変更されており、①業務内容や②変更の範囲についても、定年前と定年後で相違がある状態でもありました。については、賃金が減額されるということからすれば不利益な要素に見えますが、この裁判例では、役職定年後の減額は、定年後再雇本件では、定年前は年功的性格があり、定さらに、この裁判例では定年退職時点の賃この裁判例における業務内容の相違についそのほか、役職定年が採用されていること51エルダー※  有期雇用労働者の不合理な待遇差の禁止を規定していた旧労働契約法第20条は、2018年7月に公布された働き方改革関連法により、パートタイム・有期雇用労働法第8条に統合されました知っておきたい労働法AA&&Q

元のページ  ../index.html#53

このブックを見る