エルダー2022年10月号
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通勤手当の支給条件について就業規則の変更か実費の解釈かと考えられています。しかしながら、これらの「任意的恩恵的給付」についても、労働協約、就業規則または労働契約などによって、支給条件が明確なものは、例外的に賃金であると考えられています(昭和22年9月13日発基一七)。通勤手当も「任意的恩恵的給付」と類似しており、労働協約、就業規則または労働契約などによって支給条件が定められているかぎりは、「賃金」として扱われることになりますので、就業規則に基づき通勤手当が支給されている場合は、「賃金」に該当すると考えられます。2それでは、通勤手当について、その支給額を変更することは、法的にはどのように位置づけられるのでしょうか。労働者への影響としては、実費として通勤定期代を受領していたような場合には、労働条件が不利益に変更されるようにも見えます。例えば、就業規則に基づき通勤手当を支給しており、就業規則の不利益な変更をする場合には、その変更の必要性や、変更内容の相当性、労働者への説明内容などに照らして、就業規則の変更が合理的なものでなければならないとも考えられます(労働契約法第10条)。特に、賃金については、労働者にとって重要な権利とされており、不利益に変更することは、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に、その変更の効力が生ずると考えられています(最高裁昭和63年2月16日判決・大曲市農業協同組合事件)。3就業規則に定められた通勤手当の支給額が、実費として定められている場合に、その実費として支給する額が変更されることは、労働条件の変更として、就業規則の不利益変更に該当するのでしょうか。例えば、実費支給であるとしても、「通勤定期代3カ月分を実費として支給する」などの記載がされている場合には、「通勤定期代3カ月分」の支給が労働条件として約束されているといえるため、この部分の就業規則を変更する必要が生じるでしょう。一方で、「通勤手当として、通勤に必要な費用を実費として支給する」といった記載であれば、この場合「必要な費用」がいくらであるかは解釈の余地があることになります。在宅勤務となったときには通勤に必要な費用が発生しなくなることから、通勤手当の支給をなくすことも可能と解釈できます。の記載によって、通勤手当の減額が可能であるか、就業規則の変更まで必要となるのか、結論が異なることになります。するということは、従業員の知合いの企業は下げられなかったが、自社だけ下げられたといった不満が生じるおそれは否定できません。自社では通勤手当の減額が可能であるとしても、なぜ減額が可能であるのかについては、従業員にしっかりと説明をして理解をしてもらうことが望ましいでしょう。ての変更の合理性についてですが、通勤手当の場合は基本給や賞与、退職金などの減額と比較すると重大な影響といえるかという点には若干疑問もあります。通勤定期券を購入する必要がなくなったのであれば、支給の必要性は低下しているとはいえるでしょう。在宅勤務ではなくなったときには従前の通勤手当の支給条件に戻るようにしておき、在宅勤務中の通勤手当に不利益変更の範囲を限定すれば、労働者への十分な説明を経たうえで、変更が有効と認められる余地はあるのではないかと思われます。そのため、企業ごとの就業規則(賃金規程)なお、このように企業によって結論が相違なお、就業規則の変更を要する場合につい53エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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