エルダー2022年10月号
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ます。二つめが、その期待に自分はどれほど応えることができるかという「自己効力感」、平たくいえば「自信」ですね。「認知された期待」と「自己効力感」のギャップが大きいほど、プレッシャーは大きくなります。そして三つめが「問題の重要性」です。仮に、期待に応える能力がないと思える場合でも、そのことが自分にとってさほど重要でなければ、呪縛に陥ることはありません。認知された期待と自己効力感のギャップが大きい場合、本人にできることは、問題の重要性を小さくすること。いい換えれば問題を相対化することです。「それしかない」、「そこにしか自分の居場所がない」と自分を追い込むから、プレッシャーに押しつぶされてしまうのです。太田 昇進・昇格を重ね、高いポジションを獲得したシニアは、その役割にふさわしい期待に応えたいという気持ちがあります。その一方で、自分が第一線で活躍してきたころとは仕事の環境も手法も変わり、能力を発揮できないと気づかされることが多い。そのうえ、役職定年後は力を行使できる権限がなくなり、定年後再雇用で報酬も大きく下がっている。自尊も尊敬も損なわれ、生きる意味を見失ってしまう状態に陥りがちです。そこで企業には、長年の経験が活きるような業務で、シニアを活用してほしいですね。シニアはさまざまな経験をしています。失敗談も含めて、実際に体験した事実を若い世代に伝えるという役割をシニアにになってもらうことは、若い人や会社のためになりますし、シニアの承認欲求も健全に満たされることにもなります。また、会社内での地位や報酬が、年功的な右肩上がりの場合、役職定年などを境に急激に処遇がダウンし、シニアの自尊や尊敬が損なわれることがあります。もっと若いころから、小刻みに賃金がアップダウンするような人事・評価制度に変えていくことが必要ではないでしょうか。一方、本人の心構えでポイントになるのは、問題を相対化できる心のゆとりを持つことです。「会社でのキャリアが人生のすべて」と思うような生き方では、何らかの理由で会社における自分の評価や処遇が下がったり、自身が思い描いている期待に反して活躍できなかったりしたときに、人格そのものが否定されたような感覚になり、承認欲求の呪縛に陥ってしまうおそれがあります。つの世界」を持つことです。趣味でも地域活動でも何でもよいのです。コロナ禍に加え、働き方改革が進み、会社から離れる時間が増えてきました。副業や兼業のハードルも下がりつつあります。会社とは別の帰属先、準拠集団を持つことができれば、会社で思うように力を発揮できないという問題の重要性が相対化され、過大なプレッシャーに押しつぶされることもなくなるでしょう。それを回避するには、会社以外に「もう一―年功を積んで地位や報酬を高めてきたシニアは、認知された期待と自己効力感のギャップに悩む場面が多いかもしれません。(聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一撮影/安田美紀)シニアを直撃する「自尊」と「尊敬」の喪失感「もう一つの世界」を持とう2022.104同志社大学 政策学部 教授太田 肇さん 

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