エルダー2022年11月号
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奥歯で〝噛めなくなる〟ことが認知症や転倒などの健康リスクを高めるト※で、私は歯の分析を担当したのですが、認知症の判定を受けていない65歳以上山本の高齢者を4年間追跡調査したプロジェクこの調査でいろいろなことがわかってきました。「歯が20本以上ある人」、「歯が少なくて義歯を入れている人」、「歯がほとんどなくて義歯未使用の人」を調べたところ、歯が20本以上ある人に比べ、歯がほとんどなく義歯未使用の人は認知症発症リスクが1・85倍高かったのです。認知症には年齢、経済状態、生活習慣などさまざまな要因がありますが、こうした要因を取り除いても1・85倍。これらの要因を取り除かなければ4倍以上認知症になりやすいことがわかりました。それだけではありません。同じプロジェクトで過去1年間に転倒の経験がない高齢者を3年間追跡調査した結果、歯が19本以下で義歯未使用の人は、歯が20本以上ある人に比べて、1年に2回以上転倒するリスクが2・5倍高いこともわかりました。山本 りますが、歯が少ない人はたいてい奥歯がありません。特に奥から1本目と2本目にある奥歯を失うと噛む力が弱くなり、固い物を噛んでも砕くことができなくなります。そのため、食べられる食品に偏りが生じてしまい、生野菜などの摂取が減り、柔らかいもの、例えばパンやラーメン、カレーライスなどの炭水化物の摂取が増え、栄養素に偏りが出ます。栄養バランスの悪化は、認知症発症リスクを高める要因の一つといわれています。また、歯がないと噛まなくなるので咀■嚼■■の  ■ ■回数が減ります。歯の周りや頬の筋肉にはたくさんの神経があり、それが脳とつながっています。噛むと神経を伝って脳のなかの記憶歯は親知らずがない状態で上下28本あを司る「海■馬■」を刺激し、海馬の神経細胞が増えていきます。逆に刺激が少ないと細胞が減ってしまうことが、動物実験で確認されています。さらに、咀嚼することで筋肉が伸び縮みするため血管の血流も活発になります。血のめぐりが悪いと酸素が運ばれずに認知領域への栄養が不足し、脳の働きが鈍るのです。ない傾向があります。高齢者が集まる理由で多いのが食事会です。実際に私たちが調査した結果でも、歯が少なく噛めなくなったと感じている人は外出が減って、家に閉じこもりがちになり、うつなどの精神的不調に陥りやすいことがわかっています。逆によく外出し、人と会う機会が多い人は歯が多いのです。認知症は人と会わないなど社会参加が大きく影響するといわれていますが、歯が少ないことも認知症の引き金になりやすいのです。山本 下がっています。頭は重いので頭がフラフラすると体の重心も揺れますが、奥歯をしっかりと噛むことで顎と頭が固定されます。しかし奥歯を失うとしっかり噛めないので、顎と加えて、歯が少ない高齢者はあまり外出し下顎は頭の骨にブランコのようにぶら―山本先生は『ボケたくなければ「奥歯」は抜くな』という本を執筆されています。認知症と奥歯には関係があるのでしょうか。―衝撃的な結果ですね。歯と認知症の因果関係について教えてください。か。―転倒リスクが高まるのはなぜでしょう2022.112※ 日本福祉大学の研究者を中心とした「愛知老年学的評価研究」神奈川歯科大学 教学部長 歯学部教授(健康科学講座 社会歯科学分野)山本龍生さん

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