エルダー2022年11月号
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的な理由があり、社会通念上の相当性がないかぎり、契約を終了させることはできないと定めている内容が、定年後再雇用についても適用されるのか争われることがあります。もし、この規定が適用され、契約更新を拒絶できないとすれば、「従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の条件で当該申込みを承諾したものとみなす」と定められているため、労働条件の変更が叶わないということになります。この点については、定年後再雇用者に関して、無期転換ルールの適用除外が可能であることは法律上明記されているところ、定年後再雇用の労働者について、労働契約法第19条が定める有期労働契約の更新等に対する規制を除外する旨の規定が存在しません。したがって、定年後再雇用の有期雇用労働者であっても、労働契約法第19条による保護を受けることができます。年後に再雇用した後の労働条件の変更に2定ついて、本連載の第48回(本誌2022年5月号)では、労働条件の変更が許容された裁判例を紹介しましたが、逆に、労働条件の変更を理由とする再雇用契約の拒絶が違法と判断された事例を紹介します。広島高裁令和2年12月25日判決(Y社事件。原審は山口地裁宇部支部令和2年4月3日判決)は、定年退職を経た後に再雇用契約を締結していた労働者の労働条件の引下げとそれを拒絶した労働者への対応が問題となった事案です。この事案の使用者は、定年後再雇用した労働者に対しては、高年齢者雇用安定法のみが適用され、労働契約法第19条は適用されないと主張しましたが、「被控訴人の定年退職後の再雇用自体ではなく、被控訴人の定年退職に伴って締結された有期労働契約である本件継続雇用契約の更新の有無及びその内容が問題となっている事案であるから、同条の適用ないし準用のある事案であることは明らか」と判断されました。要するに、定年直後に行う再雇用に関しては高年齢者雇用安定法が適用される場面となるが、その後の再雇用の更新については労働契約法第19条が適用されると判断しています。次に、労働契約更新の期待に関して地裁の判断を維持して、「被告嘱託規定3条は、第2条に定める期間を過ぎた後も定期健康診断の結果が良好であることなどの6つの条件を備えた者については例外なく満65歳の誕生日の属する賃金締切日(属する月の賃金締切日という趣旨であると解される。)まで再雇用することが定められて」いたこと、6つの条件を満たしていたことを理由として、「原告は、平成29年3月1日以降も被告において再雇用されると期待することについて合理的理由がある」と判断し、労働契約法第19条が適用される基礎があると判断されました。そのため、雇止めの理由が客観的かつ合理的なものであり、社会通念上相当と認められなければ、従前と同一の労働条件を維持して、雇用を継続しなければならないことになります。理由の有無および社会通念上の相当性については、使用者が、3種類の労働条件を提案(うち2つは就業日数の減少にともなう賃金減額が生じるものであり、もう1つは賃金額を維持して就労場所を変更する内容)しており、そのいずれについても拒絶されたことを合理的な理由として主張していたところ「そもそも、本件継続雇用契約の時点で原告の定年退職時の給与の6割程度の給与としているところ、本件提案は、本件継続雇用契約の更新時に上記給与の額を更に減額したり、就労場所に係る労働条件の不利益変更を伴ったりする内容のものであり、被控訴人が上記内容に合意しないことをもって上記更新を拒絶することを正当化し得るものではない」と評価され、「被控訴人がこれを拒絶することには相応の理由があり、控訴人にとっても被控訴人による拒絶を十分想定し得るものであることも併せ考慮すると、本件提案を被控訴人が受け入れなかったことをもって、控訴人による本件継続雇用の更新拒絶について客観的に合理的な次に、雇止めに関する客観的かつ合理的な裁判例の紹介57エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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