エルダー2022年11月号
61/68

定残業代の有効要件について、最高裁平2固成30年7月19日判決(日本ケミカル事件)は、「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべき」という判断基準を示しました。この判断基準を示すにあたって、原審が示した割増賃金の金額を正確に把握し続ける仕組みや基本給と定額残業代の金額のバランスの適切さなどは必須ではないとも明言されています。固定残業代の有効要件として、①基本給と残業代が明確に区分されていること(明確区分性)、②固定の手当が実質的に時間外労働の対価の趣旨で支払われていること(対価性)、③固定残業代を超える割増賃金について差額を支払う旨の合意(清算合意)が必要、という考え方があります。これらのうち、①については、基本給と残業代が明確に区分されていなければ、どの範囲が割増賃金の前払いであるものか否か不明となるため、必須の要件として理解されています。次に、②については、たしかに最高裁判例が「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否か」という表現がなされていることから、対価性という要件が必要と考えられることがありますが、この内容は明確区分性の要件と重なる部分が大きく、明らかに対価性を欠く場合(割増賃金としての性質以外の対価が含まれた曖昧な手当である場合)には問題となり得るものの、そのような場合以外には要件としては機能しづらいと考えられます。最後に③の清算合意については、過去の判例(平成24年3月8日判決〈テックジャパン事件〉)の補足意見で、固定残業代では割増賃金に対する支払いが不足する場合における清算の実施を重視していたことを受けたものですが、その後の最高裁判例をみても清算合意が必須とはされていません。3このような状況のなか、就業規則や雇用契約において、「外勤手当」を固定残業代として取り扱っていたことが、固定残業代として有効であるか判断した裁判例があります(大阪地裁堺支部令和3年12月27日判決〈株式会社浜田事件〉)。この裁判例において労働者側からは、上記の①から③が固定残業代の有効要件であると主張されましたが、裁判所は①のみが必須の要件であることを前提として、日本ケミカル事件が示した判断基準を基に固定残業代の有効性を判断しました。間分)および残業時間が36時間よりも少なくても減額することはない旨が明示されていたこと、入社面接時に説明し、入社後も年2回の定期的な面接の際において「外勤手当」はることについてモニターに資料を示しながら説明していたこと、給与明細において外勤手当をほかの手当と区分して支給していたことなどを総合的に考慮し、就業規則の規定や雇用契約書の規定がなくとも、固定残業代が有効であると判断しました。あったところ、超過していた時間数に相当する割増賃金およびそれに対する付加金についてのみ支払いが命じられました。なお、固定残業時間との乖離が激しい場合には、固定残業代の有効性が否定される場合があり得ることも日本ケミカル事件では触れられているため、乖離しないように留意するか、必ず超過部分の支払いを実施するなどの対応は必要でしょう。をしている事例はほかにもあり(大阪地裁令和3年1月12日判決)、近年の裁判例における一つの傾向ともいえそうです。その際に、求人募集において時間数(36時また、固定残業時間を超えていた月が若干このように明確区分性のみに依■拠■して判断固定残業代の有効要件裁判例の紹介について59■36時間分の時間外労働の割増賃金を含んでいエルダー知っておきたい労働法AA&&Q

元のページ  ../index.html#61

このブックを見る