エルダー2022年12月号
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たとえ、労働契約関係があるといえども、このような私的な契約関係まで変更することを求めることはできないでしょう。ネットワーク環境が不適切なままであれば、作業効率が低下し、Web会議などへの参加も困難またはスムーズなやり取りができないなどの支障が生じ、そのことが自身の人事評価に直結するおそれもある以上、ネットワーク環境が整わないまま、自動車通勤ではなく、在宅勤務を行うように命じることもできないと考えられます。したがって、就業規則において自動車通勤を認めながら特段の制限も行っていないときは、当該社員のみ自動車通勤を拒み、労務提供の方法を在宅勤務に制限することはできないと考えられます。定の年齢を基準として、自動車通勤を行2一わせることを一律に制限することは可能でしょうか。高齢ドライバーによる交通事故が報道される機会もあり、運転免許証の返納などの話題も広く知られるようになってきました。事故の程度が大きければ、在籍している会社も報道の対象となる可能性があります。運転免許証の返納制度を利用しているのがほとんど高齢者であることからもわかるように、加齢とともに動体視力や判断力が低下することにより、自動車事故の発生確率が上昇する関係にある以上、年齢による制限の必要性自体は肯定できそうです。しかしながら、このことによって受ける不利益の程度が大きければ、就業規則において自動車通勤の年齢制限を設ける変更は、就業規則の不利益変更として無効になる可能性があります。高齢者に一律の自動車通勤制限を設けることは、労働者にどのような不利益を生じさせることになるでしょうか。例えば、公共交通機関による通勤が困難な場所に会社が所在している場合は、事実上、在宅勤務以外に選択肢がなくなるおそれがあります。在宅勤務に適した環境ではない高齢者にとっては、労務提供自体が困難になる可能性があります。また、自動車運転の能力が一定年齢で一律に喪失すると考えられているわけではありません。免許の返納制度を見ても、人それぞれのタイミングで返納を自主的に判断するものとされ、一定年齢に到達した際の義務とはされていません。そのため、一定の年齢のみを基準として、一律に自動車通勤を禁止することは、その不利益の程度が大きく、就業規則の変更に合理性が肯定されず、そのような変更は無効になる可能性が高いと考えます。3高した自動車通勤の制限の必要性自体は肯定できるものの、年齢による一律の制限は不利益の程度が大きいと考えられます。高齢者による自動車通勤のリスクもふまえた安全管理については、許可の条件を工夫する必要があると考えられます。を根拠とする一律の年齢制限ではなく、具体的な自動車事故の危険性まで把握したうえで、個別に自動車通勤を制限することは可能と考えられます。ために服用している薬とその副作用の内容などを把握して、副作用による危険運転のリスクがないことを許可の要件とする方法があります。また、高齢者となってから交通事故を起こしている場合や、視力や動体視力などの運転のために必要な基礎的な能力をテストしたうえで一定の基準に満たない場合など、自動車事故の危険性を具体的に根拠づける事情に基づいて許可要件を定めるといった方法も考えられます。これらの事情に該当する労働者(高齢者にかぎらず、雇用形態の相違も問うべきではありません)については、個別に自動車通勤の許可を出さないという制限を行齢者による自動車事故のおそれを根拠と抽象的な高齢者による自動車事故の危険性例えば、年齢ではなく、持病の治療などの高齢者などの自動車通勤の一律制限高齢者による自動車通勤に対する安全管理47エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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