エルダー2022年12月号
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前提にすると、労働契約や就業規則に個別具体的に明記された規定がない場合であっても、企業秩序の維持や企業の施設管理に必要な範囲において、業務命令や当該命令への違反に対する懲戒権の行使が可能であると考えられます。なお、これらの判例について、個別具体的な根拠なく業務命令や懲戒権行使の対象とされることから労働者の予測可能性を失わせ、労働者の行動を萎縮させることになるとして、批判的な見解もあります。しかしながら、あらゆる状況を個別具体的に想定して規定しておくことが現実的には困難であることからすれば、就業規則において、少なくとも「その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと」といった抽象的であるとはいえ、企業秩序の維持が労働者の義務として設定されているのであれば、業務命令や懲戒処分の対象とすることは可能と考えられます。業務命令や懲戒権の限界について2企業秩序の維持や施設管理を根拠として、業務命令および懲戒処分が可能であるとしても、どのような場合においても業務命令および懲戒処分ができることにはなりません。まず、業務命令について、企業秩序の維持との関連性や施設管理の必要性がなければならないと考えられます。次に、懲戒処分に関しては、労働契約法15条において、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。したがって、懲戒権を行使する場合においては、「客観的に合理的な理由および社会通念上の相当性」が備わっていなければならず、特に社会通念上の相当性との関係から、ほかの労働者との公平性が確保されていなければならないと考えられています。当該社員のみを対象とすることは、公平性の確保の観点から問題になります。そのほか、懲戒手続に至るまでに本人の弁明の機会を与えるべきといった手続的な相当性や懲戒処分により生じる不利益の程度と違反事由の重大性のバランスなどが考慮されて、懲戒処分の有効性が判断されることになります。3一般的に社内における飲食を禁止しているわけではない状況で、当該社員のみを業務命令の対象としたうえで、是正されない場合に懲戒処分ができるでしょうか。管理との関連性およびその具体的な必要性が肯定できるか、また、客観的な根拠をもってこれらを証明することが可能であるかといった点にあります。れば、これが当然に企業秩序維持に支障をきたすとは考えられません。ただし、社内で飲食したことによって当該飲食を原因として施設や設備で汚損が生じ、通常以上に清掃する時間を要した、汚損によってほかの労働者の業務に支障が生じたといった事情があれば、企業秩序維持および施設管理との関連性および業務命令の必要性が認められそうです。懲戒処分の根拠とするのであれば、数日分の状況を写真撮影しておき客観的に証拠を確保しておくべきでしょう。その程度がほかの従業員との相違が明白であることも示すことが適切です。業務命令により是正する必要性が肯定されると考えられますので、業務命令を行ったうえで、当該命令違反に対する懲戒処分も有効に行うことが可能であると考えられます。による損害が甚大であるとまではいえないかぎりは、戒告などの軽微な懲戒処分にとどめる必要があると考えられます。重要であるのは、企業秩序維持および施設社内における飲食を禁止していないのであまた、施設や設備が汚損していたときは、このような状況が客観的に確認できれば、ただし、懲戒処分の種類については、違反対処方法について49エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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