エルダー2022年12月号
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終身雇用は制度でなく〝慣行〟である終身雇用の歴史は長くないlife-tiit今回は終身雇用について取り上げます。通常は読んで字のごとくの用語が多いですが、終身雇用については注意が必要です。終身とは本来「命を終えるまでの間」(デジタル大辞林)をさしますが、多くの企業では定年退職などにより一定年齢で雇用関係を終了させ、従業員が生涯にわたり雇用され続けることは一般的ではありません。また、終身雇用は〝制度〟として表現されることがありますが、法律上も会社の就業規則上も生涯にわたり雇用を保証するルールを設けることはありません。〝終身〟も〝制度〟も大げさな表現で、終身雇用とは「同一企業での長期的な雇用〝慣行〟」というのが本来意図することに近い表現といえます。終身雇用という用語ですが、ジェームズ・アベグレンという経営学者が『日本の経営(邦訳)』のなかで「日本の経営の大きな特徴の一つとしと指摘したことが由来といわれています。本書ではこのほかに日本の経営の特徴として「企業内労働組合(本連載2022〈令和4〉年9月号掲載)※」と「年功序列(次回解説予定)」をあげており、これら三つの特徴はまとめて日本的me commment(終身雇用)がある」経営の三種の神器と呼ばれています。りますが、太平洋戦争前後が起点になるといわれています。かつては工場の労働者を中心に賃金の高い企業に移動するなど比較的転職が多い労働環境にありました。しかし、1938(昭和13)年に戦争遂行のため国内すべての人的資源・物的資源を国家が管理・統制できる国家総動員法の成立を皮切りに、軍需産業に従事する労働者の転職が制限され、1940年には「従業者移動防止令」により労働者の転職が制限されることとなります。その一方で、労働者の意欲向上に向け、昇給や退職金、福利厚生などの充実が図られていきます。終戦後、移動の制限はなくなりますが、主に三つの要因により雇用の長期化が進んでいくことになります。労働力の供給過剰により大量解雇が発生したことに対して労働組合が雇用の安定を求めたことです。二つ目は、高度経済成長期(1955年ごろ〜)の労働力の需要ひっ迫により、社員を長期的に雇用し業務遂行能力を高め、ジョブローテーションによりさまざまな仕事を覚えさ終身雇用の慣行の成り立ちについては諸説あ一つ目は、戦後復興期(1945年ごろ〜)※ 本連載の過去の記事は当機構ホームページでご覧いただけます。https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202209.html2022.1252て株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。第30回「終身雇用」■■■■■■■■いまさら聞けない人事用語辞典

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