エルダー2022年12月号
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全労働者が終身雇用に当てはまるわけではない終身雇用の今後は不透明せることで、人手が不足している部分を補おうとしたことです。三つ目は、オイルショック(1973年ごろ〜)の経済悪化による大量解雇に対して、法律では解雇は認められるものの実質的には企業の解雇権を規制する解雇権濫用法理が確立していったことにあります。労働力の供給過剰・需要ひっ迫という反対の事象を経ながらも長期雇用の慣行が成立してきたところが少々興味深い点でもあります。とはいえ、実際には転職経験者がいるなかで終身雇用はどこまで本当なのかという素朴な疑問が出てくるかと思います。これについては『我が国の構造問題・雇用慣行等について』(2018〈平成30〉年う資料に「生え抜き社員割合の推移」というグラフがあり実態が把握できます。若年期に入社してそのまま同一企業に勤め続ける者を生え抜き社員としていますが、その割合は2016年には大卒正社員5割、高卒正社員3割程度となっています。産業別に見ると金融業・保険業が8割近くであるのに対して、医療・福祉と宿泊・飲食業は4割程度と大きな開きがあります。また、終身雇用は日本経営の特徴といわれて厚生労働省職業安定局)といいることについて先述しましたが、国際比較のデータを見ると違った側面も見えてきます。『データブック国際労働比較2022』(独立行政法人労働政策研究・研修機構)の勤続年数別雇用者割合を参照すると、勤続年数10年以上の雇用者割合は日本が45・7%の一方で、イタリア50・9%・フランス44・5%・スペイン44・0%・ドイツ40・6%という数値が並んでいます。向が日本は強いといえますが、大陸ヨーロッパ諸国と比較すると必ずしも長期雇用は日本にかぎった特徴とまではいえなさそうです。終身雇用対象者の実態は半数程度としても、終身雇用への問題提起は近年多くなされています。例えば、2019年5月、一般社団法人日本経済団体連合会の中■西■宏■明■会長(当時)は定例記者会見で「働き手の就労期間の延長が見込まれるなかで、終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えるには限界がきている」と述べ、同月にはトヨタ自動車株式会社の豊■田■章■男■社長が日本自動車工業会の会長会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこ■■ ■■■■    ないと、終身雇用を守るのはむずかしい局面に入ってきた」と述べて話題になりました。目ざす提言がなされています。経済産業省が産業構造の転換を見据えた人材政策についてまとめた『未来人材ビジョン』(2022年5月)では、長期雇用について、右肩上がりの経済成長のもとでの長期的な視点の人材育成・組織の一体感の醸成・企業特殊能力の蓄積への寄与はあったものの、今後は就業期間の長期化や経済成長におけるイノベーションの重要性等の観点から、働き手と組織の関係を「選び、選ばれる」関係へと変化させ、新卒一括採用だけではない多様な複線化された採用の入り口を増やしていく方向へ転換する重要性が述べられています。ます。パーソル総合研究所が実施した「働く10000人の就業・成長定点調査2022」では、転職意向について、2022年時点で20―24歳の回答がもっとも多く44%、もっとも少ないのが40代で21%、2017年からの毎年の推移を見ても30代が右肩上がり(2017年特筆すべき傾向はない状態です。また、官の側からも、終身雇用からの脱却をしかし、労働者側の意識は異なると想定され* * * 次回は、「年功序列」について解説します。* 53エルダー29%、2022年35%)の傾向がある以外は、28・0%のアメリカと比較すると長期雇用の傾■■■■■■■■いまさら聞けない人事用語辞典

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