エルダー2023年1月号
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もらうことを大切にして、定年延長を行ったという背景があります。大木 IT企業は一般的に「若い会社」というイメージがあります。年齢の高い人材はまだまだ少ないような印象もあるのですが、実態はどうなのですか。森田 当社は2023年に創業52年を迎えます。現時点で60歳を超える人材は決して多いわけではありませんが、IT業界のなかでは比較的長い歴史があるので、60歳、65歳を超える社員は今後も増えていくと予想しています。経営トップの思いを背景に、年齢に関係なく全社員が安心して働ける制度を整備大木 トラスコ中山株式会社(以下、「トラスコ中山」)の場合はいかがですか。喜多 当社では、経営トップの「企業には社員が安心して、安定して働ける職場を提供する義務がある」という思いが浸透しています。男性も女性も若手もベテランも、安心して安定して働ける場所を提供しようと、早くから社員の安心感とモチベーションを向上させる施策に取り組んできました。その施策の一環として、高齢社員も長く戦力として活躍してもらい、業績拡大の原動力になってほしいという思いから、2012年に63歳定年制、2015年に65歳定年制を導入し、希望者全員70歳までの再雇用制度も整えました。同時に、70歳以降75歳までパート社員として働ける制度を導入しています。御社の場合は全国にたくさんの拠点があ大木 りますよね。65歳定年まで異動の可能性もあるのですか。喜多 当社は、機械工具など主に工場で使われる副資材の専門商社です。お客さまに速やかに製品をお届けするため、94カ所に拠点があり、転勤や部署間の異動が多いのは事実です。そのため制度上は、65歳まで異動の可能性があるのですが、実際の運用では、60歳を超えての異動はほとんどありません。単身赴任していた社員などの場合は、50代後半からは家族と過ごせるような運用を行っています。導入にあたっては役割の明確化と納得できる報酬制度が重要大木 さて、ここまでは70歳雇用制度の導入の背景・経緯についてうかがいました。一方で、人事制度を大きく見直すとなると、さまざまな苦労がつきものです。特に定年後再雇用では、TISの森田さんのお話にもあったように、処遇の低下によるモチベーションダウンも、高齢者雇用の課題といわれています。制度を見直すうえで、苦労・工夫したことや、モチベーション問題への対策について教えてください。渡辺 70歳への雇用延長にあたっては、まずは「どんな役割を果たしてほしいのか」を明確にすることと、その定義づけを行いました。定義した役割とは、①経験を活かして、ほかの社員のお手本となること、②それぞれが得た知識や技能などを伝承する役割をになってもらうこと、③金融の専門家として第一線で活躍し続けてもらうこと、の3点です。賃金の設定には苦労しました。当社の場合、65歳以降の賃金は時給となるのですが、会社が重要視している負荷が高い仕事、例えばお客さまへ直接営業を行うような最前線で働いてもらう仕事と、定型的な業務を行う仕事とでは時給は異なります。ただ、時給を設定するにあたって「どこが妥当なのか」というところがなかなか見出せず苦労しました。ベーションの低下はどうしても避けられません。当社の場合、65歳以降は賞与はなくなるのですが、賞与に代わる仕組みとして、成果に応じて報酬を支給する「メリット配分」という仕組みを取り入れています。このときの役割定義や職務の難易度に応じたまた、定年後再雇用で処遇が下がると、モチまた、技能伝承をになっている高齢社員の表  9

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