エルダー2023年1月号
23/68

■■■■■■■■■■■■■鷹山の名人事「しかし殿にとってあの娘は公務執行上、(名秘書として)本当に必要では?」「そうだ。本当に必要だからまず整理するのだ。必要でなければ整理はしない」「?」家老にとって解釈できない言葉でした。家老は家で一晩考えました。「必要だから整理する、ということは?」その対立語として、「必要でなければ整理しない、ということになる」考えをさらに深めます。「必要な人間を整理すれば、その人間の仕事は残った者にくる。残った者の仕事はよりきびしくなる。待てよ、これは?」家老は鷹山がいつも口にしている、「改革とは勇気の連続だ」という言葉を思い出しました。「必要でない者を整理しても、組織には何の影響もない。が、必要な者を整理すれば?」頭の中がこんがらかってきました。しかしその答えは、翌日城に行くと鷹山が出してくれました。「家老」「はい」「きのう真っ先に整理した私付きの娘だが」「はい」「郡■奉■行■所■勤務にしなさい」「は? さようですか、ウヒヒヒ」「何だ、そのいやしい笑いかたは」「まことに花も実もあるおはからいで。郡奉行所はさぞかし大喜びでございましょう」「そうか、それだとよいが」いまでいえば本社の秘書一人減。そして現場の支所一人増員ということです。社長が働き者の秘書を思いきって、欲しがっていた現場の支所に割愛したのです。鷹山は養子です。日■向■(宮崎県)の高鍋藩主秋■月■家の次男でした。小さい藩(三万石)で、いつも財政難で苦しんでいました。貧しさは骨身にしみています。父も兄も財政改革で努力の連続でした。太宰治ではありませんが、時には、「神や仏よ、貧しさは罪なりや?」と問いかけたい気持ちさえあったでしょう。それだけに貧しい者の気持ちをよく知っていました。鷹山は後継ぎに、「民は殿様と家臣のために在■るのではない。民のために殿様と家臣が存在するのだ」と告げています。伝聞ですが、このことを知ったアメリカの故ケネディ大統領が、「私のもっとも尊敬する日本人の一人」として、ウエスギ・ヨウザンの名をあげたことがあるそうです。ケネディの娘さんが駐日大使のときに米沢で講演し、そのことに触れて、「父から聞いたことがあります」と、保証していました。おそらく内■村■鑑■三■※1さんの『代表的日本人』※2(原作は英語)で扱われた鷹山の伝記を、大統領自身か、ブレーン(作家や評論家など)のだれかが目に留めたのだ、と私は思っています。事実とすればうれしいことです。21※1 内村鑑三……明治〜昭和時代前期の日本のキリスト教思想家・文学者・伝道者・聖書学者※2  『代表的日本人』…… 内村鑑三による英語の著作で、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮の生涯が紹介されている。明治時代、日本の精神性の深さを世界に知ってもらおうと英語で出版されたエルダー

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る