エルダー2023年1月号
27/68

生涯現役で働ける職域を開発「『こんなことで困っているのだけれど』と相談されると、その人の作業を1〜2時間かけてじっと観察し、問題点や改善点を探ります。その後打合せを行い、図面を書いてさらに擦合せをして完成させます。製作の全部を任されているので、どうつくるかを考えるのはとても面白いです。要望をあれこれといってくれる人だと特にやりがいがありますね。作業担当者の想像を超えたものができると驚かれて、喜ばれるのがうれしいです」と、とても楽しそうに語ります。これまで植田さんが手がけた作品は、梱包材を必要な分だけきれいにカットできる「緩衝材カッター」、工具置きや引き出し式図面置きを備えた作業台など、枚挙にいとまがありません。木工の技術と仲間への思いやりを持って製作した大型什器は、工場や社屋のあちこちで活躍しています。もともと植田さんは神戸市に住み機械技術者として働いていたそうですが、阪神淡路大震災を機に、27年前に現在の岡山県美作市に引っ越してきました。震災後1年間は木工の学校に通い、その後は自分の工房を持って木工加工と機械技師の仕事をしてきました。務のうち大半は自分の工房で什器を製作しています。「歳を取ってみると人の役に立ちたいと思うもので、『ありがとう』と感謝してもらえるのが何よりうれしいです。役に立ちたいという思いが満たされると、心と身体の両面で健康になれます。朝起きて行くところがある、やることがあるということは幸せですね。会社に来るのがうれしくてしかたないです。晩年がこんな楽しいとは思いませんでした」と話してくれました。同社は新しく農業分野に参入しており、農業管理のためのシステムを開発。農作業を大幅に効率化して少人数での生産を可能にし、高齢従業員の負担を軽減しています。将来的にはAIの指示通りに作業すればだれでも栽培できる農業を目ざしています。現在はニンニクと椎茸を栽培しています。「従来のような一次産業では思うように収入が見込めないので、少しでも高い給料を支払えるよう、加工品製造、販売までの六次産業化を目ざしています。また、耕作放棄地の有効活用など地域資源を活かし、中山間地域を活性化させていきたいと思います。工場の仕事が体力的にむずかしくなっても、引き続き働きたいと考える方たちに、当社は働く場を提供し続け、最終的には定年のない会社にしたいと考えています。それが会社と従業員、互いの幸せにつながります」(万殿社長)今回の取材で、安藤プランナーは「高齢従業員がそれぞれの能力を発揮し、楽しく働いていることを改めて感じました。現在は60歳定年ですが、今後の経営計画として定年を65歳に延長し、その後70歳までの継続雇用制度の導入を検討しています。さらに、70歳以降の高齢者の受け皿として、地域・社会の活性化を目ざして、アグリビジネスという新分野への進出も検討されています。そこで今後は、先進事例を紹介しながら就業規則などの規定の整備を支援していきたいと考えています」と話していました。働く意欲がある高齢者が元気に働き続ける場所を提供し続け、地域活性化を目ざす同社の取組みに、今後も目が離せません。(取材・西村玲)「緩衝材カッター」の製作過程を説明する植田得之亮さん25エルダー60歳を過ぎて同社に入社し、現在は月20日の勤

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る