エルダー2023年1月号
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ちで活かしてみませんか」と声をかけていただきました。日本工研社では中途採用で高齢の従業員が多く働いていること、定年がなく健康であれば長く働けることなどを聞き、未来が少し明るくなったことをいまでも覚えています。60歳で入社し、間もなく13年が経とうとしています。まさか、60歳になってからも大好きな「ものづくり」の道を歩めるとは予想もしていませんでした。紆余曲折がありましたがいまが一番充実しています。平山社長との出会いに感謝しています。日本工研社の従業員13人のうち、半数が60歳以上で、私のように中途入社の人がほとんどです。私より高齢の人もフルタイムで働いており、その姿が私のモチベーションアップにつながっています。高齢従業員は主に板金を担当していますが、板金は設計書をもとに金属を切り出し、曲げたり、穴を開けたりして加工するものです。技術は必要ですが、同僚のなかには前職はトレーラーの運転手だったものの、畑違いの世界で学び、いまではその人にしかできない仕事をこなしている人もいます。やる気があれば技術は体得できると私は思います。幸い私は、箔押しに始まり、板金、金属プレスと経験を積んできました。これまで積み重ねてきた経験がいまに活きています。経験を評価していただき、入社以来ずっと当社の主力商品である雨量計を担当させてもらっています。雨量計は、一定時間内の降水量を測る観測機器で、当社は下請けとして雨を受ける部分を製作しています。気象庁の雨量計は全国に2000箇所ほど設置されており、台風や水害の予測に役立っていると思うとやりがいを感じます。雨量計のなかには、「転倒ます」と呼ばれる三角形の「ます」を取りつけたものが入っています。「ます」を取りつけるスポット溶接が私の仕事ですが、スポット、すなわち小さな点の溶接なので、作業には緊張がともないます。うまくいったときは「やった!」と思いますし、失敗したときは落ち込みます。大切なのは、失敗したときに「なぜ失敗したのか」の答えを自分で出すこと。それが次の成功につながると私は思います。が、80歳を超えたいまも現役で、現場の第一線に立たれています。会社は戦後すぐの創業で、平山社長は3代目ですが、昔から「定年はなくてあたり前」という社風があったようです。高齢従業員のほとんどが週5日、朝8時半から夕方5時までフルタイムで働いていますが、高齢者が働きやすい職場環境も整備されています。その柔軟な勤務体制を利用しながら、自分の体力に合わせて働くことができますし、月給制なのもありがたいです。当社は、2018(平成30)年に、埼玉県の「シニア活躍推進宣言企業」に認定され、翌年には「生涯現役実践企業」に認定されました。二つの認定は、高齢者が生涯現役を目ざしていく背中を押してくれています。味のようなものです。健康管理も特別なことはしていませんが、なるべく歩くようにしています。元気に働けるのも家族の協力があればこそと、休日はいっしょに買い物をしたり、家の掃除をしたり、妻孝行に努めています。平山社長との縁の糸を大切に紡いで、体の続くかぎりがんばっていきたいと思います。当社には定年がありません。平山社長自身余暇は、晩酌を楽しむくらいで、仕事が趣遠藤さんは何度も「感謝」という言葉を口にした。日本はものづくりの国というが、ものづくりを進める会社は多くが小規模であり、どこも苦しい経営状況が続いている。現場で働く人たちの誇りが会社を支える。「まずは実物を見てください」と、雨量計の一部分を工場から持ってきて、スポットを終えた部分を優しくなでながら説明してくださった。ものづくりにたずさわる人の「もの」に対する愛情を感じた。技術を磨く喜び人生に定年はない27高齢者に聞くエルダー

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