エルダー2023年1月号
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出張中に行われる休日の移動と労働時間該当性実務的な対応についてことにあります。そして、出張に向かうために必要な時間も、就業場所に向かうために必要な時間という性質は通勤時間に類似するものと考えられています。遠方への出張で時間を要する場合には、出張すること自体が労働時間の始まりであるかのようにも思うかもしれませんし、意識としては出発の段階から仕事のつもりで取り組むことはあるかもしれません。しかしながら、出張の目的は、出張先において会社の業務を遂行することにあり、その移動時間まで業務遂行に充てることが必ずしも求められません。裁判例では、基本的には出張中の移動時間について、具体的な指揮命令がないかぎりは労働時間に該当しないことを前提に、例外的に、納品物の運搬それ自体を重要な出張の目的としていた場合にかぎり、労働時間性を肯定しているものがあるにとどまります(東京地裁平成24年7月27日判決、ロア・アドバタイジング事件)。2ご質問では、出張中の移動に休日が含まれており、休日労働手当(割増賃金)の支払いが必要になるか懸念されています。結論を出すためには、この移動時間が労働時間に該当するか否かが問題となります。過去の裁判例では、移動時間中の時間利用の方法が拘束されていないかぎりは、たとえ海外出張の移動時間に休日を利用する場合であったとしても、労働時間として扱わないという傾向にあります。例えば、韓国への出張に要した移動時間について、労働協約において「所定就業時間外及び休日の乗車(船)時間は就業時間として取扱わない」旨定められていた事例において、当該規程を有効と認め、「移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実勤務にあたると解することが困難」であると判断された事例があります(東京地裁平成6年9月27日判決、横河電機事件)。前述の労働時間の定義を示した最高裁判例においては、当事者間の合意などの主観的事情により労働時間性が定まるものではないとされていることからすると、当事者間の労使協定の有無を重視するのではなく、移動時間の労働拘束性の程度が低いことが重要といえるでしょう。行政解釈においても同趣旨が示されており、「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」として、出張中の移動時間について原則として労働時間性を否定しています(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号)。時間に該当するのは、納品物の運搬それ自体が目的である場合や物品の常時監視等別段の指示が与えられていた場合にかぎられるでしょう。休日の移動などに対する3休しても、労働者の立場からすれば、あくまでも労働拘束性が低いにすぎず、完全に自由な利用であるかといわれるとそういうわけではありません。労働時間に該当しないからといって、何も支払ってはならないというわけではなく、使用者が任意に手当などを支給することは問題ありません。遠方への出張が多い業務に対応するような労働者からすれば、いかに労働拘束性が低いといえども、家族と過ごす時間や完全に自由な休日は減少しているため、ほかの労働者との不公平感を生じさせることを無視するのは、モチベーションの低下や離職の動機にもつながり得策ではありません。どにより出張による不利益を緩和するような措置を取っており、休日の移動についてもこれらの手当を支給する対象日としてカウントするといった配慮をすることは適切といえるでしょう。そのため、例外的に休日の移動時間が労働日の移動時間が労働時間に該当しないと多くの企業では、出張手当や日当の支給な35エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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