エルダー2023年1月号
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■■■■■人事制度面の影響も大きい見直しの機運は高まっている年功序列の成り立ちとして、高度経済成長期(1955〈昭和30〉年ころ〜)の労働力不足に対して、一度採用した社員の離職を防ぐために、勤続し続けると処遇が向上するメリットを持たせる人事制度を、意図的につくったことにあるといわれています。この仕組みは江戸時代に普及した儒教の年長者を敬うという教えや、商人の家に住み込み、丁■稚■(年少時代)による修業から、長い年月を経て番■頭■(使用人の中で最高の地位)に段階をふんで上がっていく江戸から昭和まで引き継がれた雇用上の考えもあり、精神的な面でも経営者にも労働者にも受け入れやすかったという背景もあるようです。現在の年功序列の傾向も、高度経済成長期と同様に制度が大きく影響しているといえます。第1回「人事制度(本連載2020年6月号掲載)※1」でも一部触れていますが、制度上のルール面と運用面の両方に理由があります。ルール面では、能力の蓄積に応じた昇格と昇給の制度(職能資格制度)があることです。一般的な能力の認識と異なり、人事制度上の能力は一度蓄積したら下がらないとされています。そのため、勤続年数を重ねるほど能力は蓄積され、それにともない昇格・昇給が実施され、結果として年功的な給与分布となっていきます。2022年に労務行政研究所が発表した調員・企業規模計で52・6%に上っています。運用面では、役職登用の運用とモデル賃金の存在が主な原因といえます。役職が高いほど平均勤続年数が長いという点は運用でなんとなく行ってしまっているケースがあります。例えば、同期のだれかが課長になるとバランスをとってほかの社員も課長にするといったものです。また、モデル賃金とは入社以来標準的なペースで昇格や昇給をした場合の給与水準を示すものですが、勤続年数または年齢別に右肩上がりのカーブを描くように作成するのが一般的です。勤続に対するモチベーション創出や年齢が上がるほど生活費が上がるという考えからこのようなつくり方をするのですが、この考え方は、年功序列的運用が前提にあるともいえます。これまでも年功序列の見直しは議論されてきましたが、2022年はこれまで以上に見直し機運が高まっているといえます。同年10月3日に行われた第210回国会における所信表明演査※2によると、職能資格制度の導入率は一般社説で、岸■田■文■雄■内閣総理大臣が構造的な賃上げというテーマのなかで、「年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行」と述べています。闘の指針などを通して年功序列賃金の見直しにしばしば言及しています。このほか、報道などで大手企業が年功序列からの脱却を図る制度改定を進めていることが取り上げられています。政府や経営側からの発信が目立つのは、若くて優秀な社員の離職をうながしてしまう、中途採用がしにくく多様な人材が集まらない、人材の入れ替えが起きずに組織が活性化されない、などの課題の解消のためという面があります。しかし、少子高齢化を背景に企業の平均年齢が高まっているなか、高年齢層の人件費を抑えて、採用市場で取り合いになっている若手や専門性の高い人材などに人件費を振り分けて企業の成長につなげたいという意図も見えてきます。をしやすくするためのメリットはあるものの、労働者側からすると勤続という要素だけでは処遇が上がりにくくなり専門性の向上や転職によるステップアップなどがこれまで以上に求められるため、評価の分かれるところです。説します。また、一般社団法人日本経済団体連合会は春経営者側からすると年功序列の見直しは経営次回は、「正社員と非正規社員」について解39※1 本連載の過去の記事は当機構ホームページでご覧いただけます。https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html※2 一般財団法人労務行政研究所「人事制度の実施・改定動向」エルダー■■■■■■■■いまさら聞けない人事用語辞典

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