エルダー2023年1月号
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労働適応能力を診断するWAIと労働寿命を診断するAAI同じく高齢化が進む海外に目を向けてみると、北欧を中心としたヨーロッパの国々では、職場改善の取組みではなく、加齢により自分の労働適応能力がどれほど衰退しているのかを把握する物差しを開発する取組みが行われています。フィンランドでは1980年代に、「ワーク・アビリティ・インデックス」(WAI)という労働適応能力を診断する物差しが開発されました。現在では20数ヵ国でWAIが用いられています。私は、日本の状況をふまえて、日本国内で企業のご協力をいただきながら、日本の労働環境とそこで働く人たちに適した労働適応能力を評価する物差しとして「アクティブ・エイジング・インデックス」(AAI)というツールを開発しました。このAAIは、四つの構成要素(社会的な対処能力、精神的許容能力と回復力、身体機能、労働意欲)からなり、WAIが労働適応能力を診断するのに対し、AAIでは労働寿命を推定するものになっています。そして、WAIとAAIを併用して調査をしてみると、それぞれの評価が強く相関していることがわかりました。WAIで労働適応能力が低い人は、AAIによって推定された労働寿命が短く、WAIで労働適応能力が高い人は、AAIによる労働寿命が長いのです。また、ストレスについてみると「ストレスが低い人は、労働寿命が長い」、「労働寿命が長い人は、労働適応能力が高くなってくる」という相関関係があることもわかりました。ある企業の工場では、60代で労働寿命がガクッと落ちるというデータが得られました。そこでAAIの四つの構成要素を分析したところ、「労働意欲」が低下していることがわかったのです。では、なぜ労働意欲が下がったのか。調査をしてみると、この企業では60歳の定年後は再雇用となり、急激に給与が下がることがわかりました。これが労働意欲の低下、そして労働寿命の低下につながっていたのです。健康だから、労働意欲が高まるのではなく労働意欲が高いから、健康をつくりあげるさらに、労働意欲と健康の関係を調べてみたところ、「労働意欲が高いから、健康をつくりあげる」のであって、「健康だから、労働意欲が高まるのではない」ということもわかりました。つまり、先ほど紹介した、とある企業の工場の例に当てはめてみると、賃金が低下したことにより労働意欲が低下し、労働意欲が低下することで、WAIで診断する労働適応能力が低下し、さらにAAIで推定する労働寿命が低下した、ということになります。からの調査によって明らかになってくると思いますが、いまから約400年前、イギリスの経済学者で医師であり測量家でもあったウィリアム・ペティが「健康は労働から生まれ、満足は健康から生まれる」という言葉を残しています。つまり「労働寿命を延ばすことは、健康寿命の延伸につながる」といっているのです。に延ばすかが重要です。そして健康寿命を延ばすには、やはり働くことが重要であり、毎日出社をして「おはよう」、「さようなら、また明日」といい合える身体・健康をつくり、職場では作業負荷の大きい作業環境を改善していく。そして、自分の労働適応能力がどの程度あって、その能力といま与えられている仕事にミスマッチがないかを、自分自身、あるいは職場の上司が判断できるような仕組みをつくること。ミスマッチのない仕事・職場を実現できれば、年齢・性別にかかわらず、事故のリスクは低下し、企業の求める労働生産性は高くなっていきます。くための取組みを推進していただければと思います。労働寿命と健康寿命の関係については、これ人生100年時代には、この健康寿命をいかぜひこうした視点を持って、高齢者が長く働41新春特別企画❶ 「令和4年度 高年齢者活躍企業フォーラム」基調講演からエルダー     

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