エルダー2023年1月号
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曲面のある提灯にバランスよく文字を描く伝統的な江戸提灯は、和紙の火袋に、墨による手描きで文字や家紋などを入れるのが特徴。瀧澤さんは「墨にかなうものはない」と話す。「和紙と墨の組み合わせは長く持ちます。不透明な水彩絵の具は明かりを遮断しますが、墨は明かりが透けてきれいに見えます」現代の提灯づくりは分業が基本。瀧澤さんの専門はできあがった火袋に文字を描くことだが、型起こしから骨組み、紙の張り替え、弓張り提灯※2づくりまで、提灯づくりの全工程をになえる、希少な存在だ。そのため、古い提灯を新品同様に復元することができる。また、提灯の仕上がりがよくないときは、自分で手直しすることもあるそうだ。江戸提灯はできあがった提灯に文字を描くためのコツがいる。「もっともむずかしいのが丸型提灯。提灯の上下がすぼまっていて、普通に描くと上下が小さく見えてしまいます。そうならないよう、上下を広げるように描きます」注文が多いのは弓張り提灯。祝い事に用いたり、家に飾りたいという人が多いそうだ。一般的な提灯よりも細長い形状のものが多く、曲面がきつくなるため、難易度は高くなる。また、過去には高さ1m80cmもある提灯を手がけた経験もある。瀧澤さんが特にこだわるのは、独自の書体を使うことだ。「最近はパソコンの書体を写すところが増えて、自分独自の字を描く人が少なくなりました。私は職人として、自分の書体で江戸文字を描いていきたいです。」注文を受けるときは、顧客と直接話をしながら、どんな文字を描くとよいかを考える。「硬い印象の場合は独自の江戸62提灯に字を入れる際は、全体のバランスをイメージし、天地のすぼまっている部分は少し広げて描くなど、平面に描く場合とは違うコツが求められる※2 弓張り提灯……竹を弓のように曲げ、火袋をその上下に引っかけて張った提灯「字は、筆が自然と動くようになるまで毎日くり返し練習しました。提灯に描けるまでには10年以上かかりましたね」

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