エルダー2023年2月号
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だと思います。そのあたりのバランスがむずかしく、同じような悩みを抱えている企業もあるようです」畑岡さん自身、ふり返ってみると、技能習得や新しい技術の開発に苦労していたときは、やっていて楽しいことは一つもなかったという。その後5年、10年経って「あのときは充実していた」と思い出に変わるそうだが、やっている最中は苦しさと悔しさだけが募っていたそうだ。「その経験があったから、いまの私があります。厳しさがないと悔しさは湧かないし、楽な方へ行ってしまう」と戒いめ続けるつもりだ。こうした指導のもとで技能五輪に出場し、銅賞を獲得したのが現在指導員をしている雪田さんだ。雪田さんが畑岡さんから学び取った一番大きなものは「熱意」だという。「私はかなり厳しく指導された方だと思います。だからこそ畑岡さんの大きな熱意を受け取っていて、それをいまの若い選手に伝えることが自分の役割です」(雪田さん)具体的には、普段のコミュニケーションを通じて、選手たちが「常に一番をとる」という気持ちを持てるように、「入賞する」ではなく「金賞をとる」と明確に自分の言葉で声に出すよう強く訴えているという。そしてこの思いは選手たちにもしっかり伝わっている「漫然と大会に出るだけでは何も得られませんが、訓練のなかで表彰台に上がっている自分をイメージし、『金賞をとる』と声に出していれば、おのずと技術も上がっていきます。実際に同僚の齋藤さんが表彰台に上がったのを目のあたりにすると、やはり言こ霊だというものがあるのだと思います」と話すのは宇田川さんだ。自身も2020(令和2)年の入社後、自ら技能五輪選手になることを希望し、訓練センターで指導を受け、2021年12月に技能五輪出場を果たしている。もちろん、熱意や言葉の力だけではこうした結果に導くことはできない。技術面でも畑岡さんは卓越した指導をしてくれるという。「訓練中に行きづまることがあり、自分ではその原因がわかリませんでした。そんなとき、畑岡さんがさりげなくヒントをくれました。それが大きな一歩となり、その後の積み重ねで動作の質がよくなり、結果的に入賞につながったと思います」と2022年大会で銀賞を受賞した齋藤さんは感謝を込めて語る。「仕事の質は、目で見なくてもハンマーの音を聞けばわかります。打ち方がおかしくなっているときは音が乱れるのです。実際に見てみると姿勢が悪くなっています。背筋や骨格、重心がどこにあるのかを見て、そこを修正するように選手と話します」(畑岡さん)かないうちにハンマーの打点がずれていました。絞り作業※2はハンマーの中心で打たないと上手に絞れないのですが、そのときは中心から微妙にずれていて、打撃面が綺麗な表面になっていなかったのです」とその言葉を裏づける。継がれ、オカムラのDNAを持った人材が着実に育っている。清久さんは「畑岡さんには、雪田さんのように熱意を持って指導する次の世代の指導員をこれからも育成し続けていただきたい」と大きな信頼と期待を寄せている。ヒントをもらった齋藤さんは「自分でも気づ畑岡さんの知識や技術、経験は次世代に受けとま9まし常に選手の様子に気を配り選手自身も気づかない不調を修正※2 絞り作業……板金加工において、一枚の板に圧力を加える(絞る)ことで凹ませ、継ぎ目がない容器状の形を成形すること実例を見せながら具体的に指導する畑岡さん

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