エルダー2023年2月号
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に出場する延べ28人の選手を育成し、4人を金賞に導いた実績あるベテラン指導者だ。厚生労働省「若年技能者人材育成支援等事業」において「ものづくりマイスター家具製作・建具製作」も務めている。吹谷さんは北海道立高等技術専門学院の旭川校や帯広校の造形デザイン科で木工を教えてきたが、2020年3月に迎える定年を目前にして、その後の進路について決めかねていたという。「『技能五輪の虎の穴』を自らつくろうかと漠然と考えていた矢先、技能検定と技能五輪の指導役を探していた吉田専務に声をかけてもらい、2020年4月にプレステージジャパンに入社しました」吹谷さんの教え子が2013年に技能五輪で金賞を受賞し、技能五輪国際大会に出場することが決まった際、ドイツ語の通訳として紹介されたのが吉田専務だった。まさに技能五輪が結んだ縁といえるだろう。学校から工場に教える場を移した吹谷さんが初めに感じたことは、「学校で教えたことがこんなにも身についていないのか」という落胆だったという。「現場では技術を試す時間がなく、学校だとできることができないのです。基礎がおろそかになっていることを感じました」(吹谷さん)一般的に現場のベテラン職人による技能伝承は、見て覚えるといった感覚的な手法に頼る傾向があるが、学校での指導が長い吹谷さんは座学を重視し、いかなる技術も基礎から理論で説いて教えていった。理屈で伝えるのは、教わっている彼らが次に教える側になった際、技能伝承をスムーズにするためだ。「技能を学ぶと同時に、教える技術も学んでほしいと思っています。きちんと基礎から理論を学べばそれが可能です。また、基礎ができていれば失敗したときの対応の仕方など、応用ができるようになります。経験値が増えればより応用が利くようになり、そうして自分なりのやり方が身につきます」(吹谷さん)吹谷さんの指導を受け、技能五輪で成果を出佐さ藤と晴は南なさん(23歳)は家具職人を目ざして帯した若手3人に話を聞いた。広高等技術専門学院に入学。学院では吹谷さんの元で学び、2020年にプレステージジャパンに入社した。「一緒に入社した社員は3人。そのうちの1人が吹谷先生でした。入社式に先生がいるので、心配してついてきたのかなと思いました(笑)」と予期せぬ同期関係を語る。「学生時代、吹谷先生は怖い印象でしたが、いまは厳しい指導にも慣れました。やさしいところもあってお父さんのような存在です。指導は実際にやって見せてくれるのでわかりやすいです。技能五輪は技能を高めたいと思って挑戦ました。練習はきつかったのですが、出場して達成感を得ることができました。同世代の同業の人たちと交流を持てたことも、これからの財産になると思います」(佐藤さん)男性が圧倒的に多い業界で、重い木材を扱うるう理論で教えて基礎を固める指導が教える力と応用力をつちかう11指導者の吹谷眞一さん佐藤晴南さん

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