エルダー2023年2月号
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そうこうしているうちに、高齢者が働いている職場がだんだんと一般的になり、労働災害の発生率も非常に高くなってきました。この対応として、現在の企業では、転倒予防、墜落・転落予防が職場改善のトップにあがってきています。転倒、墜落・転落事故は年齢にかかわらず発生します。残念ながら高齢者の発生割合が高く、また、高齢者は若い人に比べてけがをしやすく、つまずく、あるいは転んで骨折をするというケースが非常に多くなってきています。これらの対策としては、「階段に滑り止め加工を施す」、「手すりをつける」といった対策が行われてきましたが、現在はハード面の対策に加え、転倒、墜落・転落事故を起こしにくい体づくりをすることも必要になっています。これがまさに、第1段階のエイジマネジメントといえます。また、スクワットなどの筋力トレーニングや、バランス能力の改善を図ることがリスクの低減につながりますが、実はこれらの要素を備えた運動が相撲の四股踏みです。この四股踏み運動習慣を、職場で行う体操のプログラムに入れていくとよいのではないかと思います。さらに、「70歳現役時代」が謳われている昨今の職場改善では、高齢者の作業を支える支援機器の導入に取り組む企業が増えてきています。今後は、職場開発、職務の創出、そして、多様な働き方といったことが大きな課題となっていくのではないかと考えています。ここからは、第3段階の戦術についてご説明します。ここでは、暦年齢による評価をやめて、労働適応能力と仕事対処能力による評価を行うことを提言しています。北欧を中心とした一部の国々では、加齢にともなう労働適応能力の減衰をいかに把握し、対処するかに力点を置いてきました。私は、日本でもこの方向にシフトすべきではないかと考えています。北欧における労働適応能力評価の物差しとして、フィンランドで開発された「ワーク・アビリティ・インデックス(WAI)」が国際的に有名です。これを日本用に意訳し、企業にご協力をいただいて調査を行いました。チェックリストは6項目あり、「医師によって診断された現在の疾患数」や「過去12カ月間の欠勤状況」といった客観的データもありますが、「自己の過去の最良時と比べた場合の現在の労働適応能力」といった主観によるチェック項目がたくさんあります。と、疲労回復力との関係を調べてみると、「労働適応能力が低い人は疲労回復力が低い」という相関関係があることがわかりました。調べたところ、いずれの世代も、運動習慣は労働適応能力を保持・増進することに大きく影響していることがわかりました。やはり、運動習慣を持つことは大事なのです。散歩やウォーキングでよいので、30分以上、週2回ぐらい続けることによって、労働適応能力が高まります。調べてみると、ストレスが多い人は労働適応能力が低く、ストレスが少ない人は労働適応能力が非常にすぐれている、ということもわかりました。ストレス増大、抑うつ反応、職場満足感低下、慢性疲労症状といったものが、労働適応能力の低下に大きく影響するということがわかったのです。の労働適応能力評価の物差しとして、「アクティブ・エイジング・インデックス(AAI)」を開発しました。このWAIを用いて評価された労働適応能力次に、運動習慣と労働適応能力を世代ごとにさらに、ストレスと労働適応能力との関係をその後、私はWAIを参考に、日本人向け運動習慣やストレスが労働適応能力に影響を与える労働寿命が長い人は労働適応能力がすぐれている2023.220

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