エルダー2023年2月号
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ir illi簡単にチェックできることに配慮し、四つの柱とそれぞれの項目、合計17項目で診断する内容です。四つの柱は、「身体機能」(6項目)、「精神的な許容能力と回復力」(4項目)、「社会的な対処能力」(3項目)、「労働意欲」(4項目)です。労働適応能力を評価すると同時に、労働寿命を推定することができます。そこで、労働寿命も表すAAIと、労働適応能力を評価するWAIを併用して調査を実施しました。その結果、あらゆる年代層において、労働寿命と労働適応能力が相関していることがわかりました。労働寿命が長い人は労働適応能力がすぐれている、労働寿命が短い人は労働適応能力がすぐれていないほうに傾いている、ということです。さらに、ストレス得点が低い人は、労働寿命が長くなり、労働適応能力が高くなるという相関関係があることもわかりました。これらに基づいて、ある工場で20代から60代の働く人々の労働寿命を推定したところ、60代で、標準値とはまったく異なる傾向が現れました。四つの柱別にみてみると、「社会的な対処能力」、「精神的な許容能力と回復力」、「身体機能」にはほとんど差異はみられないのですが、「労働意欲」だけが60代で大きく低下していたのです。その工場でなぜ60代から労働意欲が低下したのかを調べたところ、「現在の給与に満足している」という問いに対する回答が、60代で極端に下がっていることがわかりました。また、いろいろな適合度を調べると「労働意欲が健康に影響する」というモデルが当てはまってきます。つまり、労働意欲が高いから健康をつくりあげるのであって、健康だから労働意欲が高まるのではないことが、この調査データから示唆されたのです。ということは、この工場のデータ結果から、賃金の低下によって労働意欲が低下し、それによって就業意欲も低下。そこから、労働適応能力も低下して労働寿命が短くなってきた、と考えられるわけです。まだ研究段階ですが、労働寿命の延伸が健康寿命を延伸させていくのではないか、と思われます。くり返しになりますが、労働寿命を延ばすためには、まずはエイジマネジメントを導入し、働くことができる体づくりをすること。次に、働きやすい職場改善を行い、高齢労働者の健康と安全確保対策として、転倒予防や不良作業姿勢・重量物取扱い・視環境の改善、熱中症の予am Petty)が、おもしろい言葉を残しています。防などに取り組んでいくことが必要です。産性が高い高齢者をつくるために、企業の戦術として、労働適応能力評価を導入すべきだという提言を行いました。労働適応能力を計る物差しは、私たちが開発したものでも使えますが、自社の業務や作業に合った自社ツールを開発するのもよいかもしれません。そして、労働適応能力のさらなる向上を目ざして取組みを進めることで、労働寿命を延伸し、さらに健康寿命の延伸も期待できます。はなく、働くことができ、かつ労働生産性が高い高齢者をつくることが必須となってきます。経済学者で、地図や測量も行うなど、マルチに活躍していたウィリアム・ペティ(S「健康は労働から生まれ、満足は健康から生まれる」という言葉です。超高齢社会を迎えた日本の健康経営の基本思想となるような言葉ではないでしょうか。多くの人が希望するいわゆる「ピンピンコロリの人生」をつくることができるのではないか、そのように考えています。次の段階では、働くことができ、かつ労働生今後の日本では、健康な高齢者づくりだけでいまから400年ほど前、イギリスの医師、そして、労働寿命の延伸を図ることによって、労働寿命を延伸させていくと健康寿命が延伸されていくW21エルダー特集2生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〈福岡会場〉

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