エルダー2023年2月号
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第3回歩くのが遅くなってきた?歩行速度は6番目のバイタルサイン表1)。「週単位の運動習慣」、「日々の身体活動」、生活習慣病予防のために40歳以上を対象に行われる特定健診の標準的な問診票のなかには、運動・身体活動に関する質問が四つあります(図「歩く速度」、「運動の習慣化の準備状態を示す変化ステージ」を示していいます。このなかで「歩く速度」は、体力をあらわすよい指標として知られています。65歳以上の高齢者を対象(1万2901人)とした九つの研究をまとめたメタ解析※1では、歩く速度が遅くなると心血管による死亡が増え、死亡に対するリスクが2倍弱(1・89倍)になることがわかっています。オーストラリアの70歳以上の男性を対象とした5年間の観察研究※2では、被験者1705人中死亡者266人のうち、歩行速度が時速3㎞(0・8m/秒)より速い人は死亡率が低く、時速5㎞(1・3m/秒)より速い人で、観察期間中に死亡した人はいなかったことが報告されています。これらの研究から、歩行速度は血圧、脈拍、呼吸、体温、痛みに続く「6番目のバイタルサイン」といわれています。ただし、歩く速度が正常の人と比べて、遅い人の場合は1・66倍、速い人の場合は2・12倍、転倒しやすいことがわかっており※3、歩くのが遅い人は屋内で転倒しているのに対して、速い人は屋外で転倒しています。自分が思っているよりも足が出ていないのかもしれません。そして、せっかちな人や以前より歩く速度が落ちてきた人は要注意です。 70歳までの就業が企業の努力義務となり、時代はまさに「生涯現役時代」を迎えようとしています。高齢者に元気に働き続けてもらうためには、何より「健康」が欠かせません。 働く高齢者の「健康」について、坂根直樹先生が解説します。運動習慣(週単位)身体活動(日単位)歩行速度変化ステージ※ 厚生労働省「標準的な質問票」をもとに筆者作成1回30分以上の軽く汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施していますか?1.はい   2.いいえ日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか?1.はい   2.いいえほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速いですか?1.はい   2.いいえ運動や食生活等の生活習慣を改善してみようと思いますか。1.改善するつもりはない2.改善するつもりである(概ね6カ月以内) 3.近いうちに(概ね1カ月以内)改善するつもりであり、少しずつ始めている4.既に改善に取り組んでいる(6カ月未満) 5.既に改善に取り組んでいる(6カ月以上)2023.250※1  Liu B, Hu X, Zhang Q, Fan Y, Li J, Zou R, Zhang M, Wang X, Wang J. Usual walking speed and all-cause mortality risk in older people: A systematic review and meta-analysis. Gait Posture. 2016 Feb;44:172-7. doi: 10.1016/j.gaitpost.2015.12.008. Epub 2015 Dec 14. PMID: 27004653.※2  Stanaway FF, Gnjidic D, Blyth FM, Le Couteur DG, Naganathan V, Waite L, Seibel MJ, Handelsman DJ, Sambrook PN, Cumming RG. How fast does the Grim Reaper walk? Receiver operating characteristics curve analysis in healthy men aged 70 and over. BMJ. 2011 Dec 15;343:d7679. doi: 10.1136/bmj.d7679. PMID: 22174324; PMCID: PMC3240682.図表1 特定健診の標準的な質問票より「運動・身体活動関連」健康ライフ健康ライフ健康ライフHealthy Life for the elderly

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