エルダー2023年2月号
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ょうを数多く手がけている。高精度を支える技能者の一人が、勤続50年になる製造部グループ長の渡部玲さん。製缶の肝といえる溶接の優れた技能などが評価され、2021(令和3)年度「かわさきマイスター」に認定された。同社代表取締役の沼りえさんは、渡部さんの溶接についてこう評価する。「溶接は熱を加えるため変型が生じます。その変型を予測して事前に逆ひずみ※をつけたり、作業しやすい治具を自作することで効率を高めています。また、渡部さんのTIG(ティグ)溶接の仕上がりの美しさは、お客さまから高く評価されています。彼の技能を見込んで依頼される案件も多く、わが社の〝看板親父〟の一人です」TIG溶接は緻密な部分に適した溶接法で、タングステンの電極棒に電流を流してアーク放電を発生させ、その熱で溶接棒を溶かしながら溶接する。溶接部分を移動しながら電極棒と溶接棒を同時に操作するため、きれいに仕上げるには熟練を要する。渡部さんは溶接棒を均一の速度で送り出す技を習得し、美しいビード(溶接後の盛り上がり部分)を実現できる。渡部さんが指名で依頼を受ける案件の一つに、電磁流量計の筐き体たとコイルの製作がある。筐体は管状で、最大のものは直径2・2m、長さ3mに及ぶ。筐体は二重になっており、内部にコイルなどの計測器が組み込まれる。内側の管に取りつけたコイルと外側の管のすき間はわずか1mm。外側の管とコイルがこすれて傷がつけば、コイルが断線して使えなくなってしまう。そのため管は寸法通り真円でつくることが求められる。「金属板を、機械を使って管状渡部さんにしかできない「コイル巻き」い62TIG溶接では、左手に持つ溶接棒を均一の速さで送り出すことで、美しいビードを形成。腕を乗せることで溶接位置を自動で移動できる装置も自作した※ 逆ひずみ……溶接によって生じる変型(溶接ひずみ)を予測して、あらかじめ逆方向に与えるひずみ。逆ひずみを与えておくことで、後からひずみを取る工数を削減できる。「新しい製作の依頼がくると、まず、どうすれば安全に効率よく作業できるかを考え、必要な装置や治具をつくることから始めます」

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