エルダー2023年3月号
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較的若い人にみられる傾向ですが、10年後のキャリア目標を定めて、効率よくそこにたどり着こうという発想を持つ人がいます。しかし、キャリアも人生も、ダイアグラムを詳細につくったらそこにたどりつけると考えるのは、大きな間違いだと思います。先のことはだれにもわからないからです。そういう意味で、目標を持つより、よい習慣を身につけることが大事だと考えます。「習慣」については、また後ほど説明します。二つめは「普遍性の高い学びの能力」、または、その大前提となる「学びの主体性」です。日本ではこれまで、受け身の学びがほとんどだったと思います。最近では、政府や経済界、企業が、「学び直し」や「リスキリング」を掲げて取り組んでいます。もちろんそれもよいのですが、学ぶ側からすると「今度はこれを学びなさい」とふり回されているように思う人もいるでしょう。自分らしいキャリアを実現するためには、会社主導ではなく、本人が主体的に学ぶこと。そして、その学びが深い学びであることが大事になります。普遍性の高い学びのポイントは「のこぎり曲線を積み木崩しにしない学び方」です。どういうことかというと、想定外の異動があったり、違う分野の仕事に就いたりすると、それまでの経験は表面的には使えなくなります。しかし、仕事や学びの体験から深く学んできた人は、いくつもの引き出しを持っていて、違う分野の仕事にも役立つ、あるいはその違う分野しか経験がない人たちでは思いつかないような引き出しを持っていたりするのです。キャリアが積み木崩しになってしまうのはつらいことです。一生の間にはのこぎりの歯のように上がることもあれば下がるときもあって、学び直しが必要になることが何度も起こります。しかし、学んで経験したことは自分の財産になります。そういう感覚を持って学ぶことが大事だと思います。三つめは、「健全な仕事観」です。想定外の変化を主体的に乗り切るには、腹落ちするようなしっかりとした仕事観を持つことが、大切だと思います。要件の一つめにあげた「習慣」のことを、私は「主体的ジョブデザイン行動」と名づけました。要するに、いかに自分らしく仕事に取り組み続けているか。この習慣が大事になるのです。以前、数千人を対象としたアンケート調査で、「自分らしいキャリアができていると思いますか」、「そのキャリアは自分で切り拓いてきたという感じがしますか」とたずねました。この二つの質問は非常に相関性が高く、多変量解析の結果をおおまかに説明すると、自分らしいキャリアを自分で切り拓いてつくってきた人は、仕事を自分らしくやり続けてきた人、だったのです。また、「ネットワーキング行動」も大事になります。人間関係に対する投資や布石です。ンボルツ教授がキャリア理論の一つとして、1999年に「計画的偶発性理論」を発表しました。彼が説いているのは、自分が予想もしていなかったような人と偶然によって巡り合えている人と、巡り合えていない人がいて、その違いは何かというと、「普段の行いが違う」というのです。要は、人間関係への投資や布石の違いが、出会いの確率にあらわれるというものです。ますが、もう一つ、閉じていない、開いた関係を意味する「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」は、情けは人のためならずという状況を生むわけです。そういう意味でもやはり、「ネットワーキング行動」は自分らしいキャリアの実現にとって非常に重要だと思います。いてきた人の説明要因として、もう一つ大事な米国スタンフォード大学のジョン・D・クラ最近よく「人的資本」という言葉を見聞きしそして、自分らしいキャリアを自分で切り拓自分らしいキャリアを実現した人は仕事を自分らしくやり続けてきた人2023.38

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