エルダー2023年4月号
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副業だからできる客観的なスキルの棚卸しシニアの働き方の選択肢に副業が加わるこシニアの働き方の選択肢は、これまではものに違和感があります。「育児をするメリットは何ですか」という問いと同じように、問いの立て方自体が適切ではないと思います。それでも、強いていうなら、副業解禁を含め働き方の選択肢を増やすことで社員が幸せになれば、パフォーマンスは上がり、会社にもよい影響をもたらします。また、社員が副業の経験を通じて新しいものの見方や仕事のやり方に気づき、それが会社に持ちこまれることで自社にとっても新しい刺激となります。その刺激が会社によい変化をもたらす可能性があります。副業の実例の一つを紹介します。ある地方自治体が、副業を認めている民間企業の社員の副業先として人材を受け入れています。地域の魅力を発信する事業のプロジェクトに、民間企業の社員を副業人材として受け入れ、新事業プランのアイデアを出してもらったところ、その社員はマーケティングで用いる手法として、ターゲットとなるユーザーの属性を絞り込む「ペルソナ」という概念を取り入れ、事業を提案しました。民間企業の社員にとって、それはあたり前の思考です。しかし、地方自治体の職員には、それまでそのような発想がありませんでした。なぜなら行政は、だれにも公平なユニバーサルサービスを提供すべきだと考えており、ターゲットを絞り込むのとは真逆のアプローチで仕事をしてきたからです。この例は、副業の受け入れ側に起きた変化ですが、副業を送り出す企業にも、同じようなよい変化が起きている事例は少なくありません。では、社員が副業をすることにはどのような意義があるのでしょうか。石山 副業だけにかぎったことではありませんが、専門分野など自分のホームグラウンドから離れた領域で学ぶことは、自分の専門性を客観視でき、「わかったつもり」から抜け出して、新しい気づきを得る機会となります。越境して外の世界を見る学びという意味で、これを「越境学習」といいます。副業も、越境学習で自分を成長させる絶好の機会です。越境することは、ホームとアウェイを行き来することです。ホームである自社では暗黙の了解事項であったことが、副業先の会社では通用しないかもしれません。はじめはアウェイに行くと違和感を抱くのですが、次第にホームに戻ったときに違和感を抱くようになります。これは自分のなかの多元化したアイデンティティの摩擦が起きるということです。こうした摩擦を経て、新たな気づき、新しいものの見方ができるようになります。それが越境学習の最大の効用です。越境学習で学びを得るために大事なポイントは、自分が属する組織におけるアイデンティティをいったん脇に置いて、「どうしたら越境先で貢献できるか」を本気で考えることです。自分のアイデンティティを変えないまま、越境先からスキルや情報など「目の前の利益」を取っ――9てこようとすると、学びが小さくなります。副業をする場合にも同じことがいえます。とについては、どのようにお考えですか。石山 「継続雇用」、「転職」、「起業」くらいしかありませんでした。転職や起業はハードルが高いですが、ここに「副業」という選択肢が加わると、可能性が広がります。副業の形態も多様なものがあります。複数の職場をかけ持ちし、リモートで副業をするとか、副業先のプロジェクトに期間を区切って参加するといったスタイルもあります。現在の会社に在籍したまま副業を行うだけではなく、フリーランスとなって複数の業務を請け負う、週2日だけリモートで副業のプロジェクトに参加するなど、多様な組合せで働き方をデザインできるようになります。副業という選択肢は、サードエイジにふさわしい

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