エルダー2023年4月号
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手当における相違が違法とされた裁判例れることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない」と定めています(いわゆる「均等待遇」の規定)。前者と後者の相違は、不合理な相違がないかという観点からバランス(均衡)を保つことが求められるか、それとも差別的な取扱いを一律禁止して均等な待遇を求められるかという点であり、適用される要件の相違は、「通常の労働者との同一性」にあります。したがって、現在の法律に照らすと、職務の内容と配置が同一である場合には、均等待遇の規定が適用されることから差異を設けることができなくなるため、定年後再雇用者と正社員の間では職務内容の差異があるか否かが重要となります。なお、均衡待遇の規定が適用される場合については、これまでの判例において、「職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはなら」ず、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下、「職務の内容等」)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならない」と解釈されており、賃金項目ごとの相違については、「両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当」という基準が確立しています(最高裁平成30年6月1日判決等)。そのため、賃金総額でのバランスのみならず、賃金項目ごとの相違点の説明が合理的に行えるか否かが重要と考えられています。2定年後再雇用における同一労働同一賃金に関する裁判例において、基本給および賞与については相違の合理性を認めつつ、家族手当や住宅手当については相違の合理性を否定した裁判例を紹介します(神戸地裁姫路支部令和3年3月22日判決)。事案の概要としては、正社員には、一般コースと呼ばれる人事考課による昇給を前提とした職能資格等級制度による長期雇用が想定されていた一方で、定年後再雇用者については、嘱託社員として再雇用されるものの、人事考課による昇給などは想定されていませんでしたが、担当役員の推薦を前提に、高卒中途採用レベルの能力診断のための試験などに合格するなど、一定の要件を充足したときには年俸社員に登用される制度が用意されており、年俸社員は嘱託社員と比較して賃金の総額は高く設定されていました。なお、業務内容は同一の業務に従事することはあったものの、責任の程度は一般コースの正社員の方が強く求められる状況でしたが、いずれの社員も転勤などが行われることは想定されていませんでした。与に関しては、人材活用の仕組みの相違を主な理由として、その差異は不合理ではないと判断されました。人材活用の仕組みの主な内容は、人事考課を前提とした職能資格等級制度の適用があるか否かですが、それに加えて嘱託社員に年俸社員への登用の機会を与えていたことも考慮されています。扶養者がいることによる負担の増加はいずれの社員にとっても変わらないこと、転居をともなう異動の予定がないことも相違ないことから、不合理な差異であり、差額の支払いが命じられています。支給により有為な人材の確保や長期定着を図る趣旨があるとの主張をしていましたが、この主張は排斥されています。このような理由は、どのような手当にもあてはめることができ、これだけの理由をもって手当の支給の有無の差異を説明しきることはできないと考えておくべきでしょう。このような企業において、基本給および賞一方で、家族手当と住宅手当については、なお、使用者は、一般コースの正社員への51エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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