エルダー2023年4月号
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配置転換命令違反に対する解雇が有効とされた裁判例当該転勤命令につき①業務上の必要性が存しない場合又は②業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべき」と判断されています(文中の数字は筆者による追加)。したがって、①業務上の必要性がない場合は無効となるほか、業務上の必要性があるとしても、②不当な動機・目的(典型的には、配置転換ではなく退職への追い込みを主目的としている場合や内部通報者に対する配置転換などが想定されます)をもってなされたものであるときや、③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときは無効となるとされています。なお、育児介護休業法に基づく子や家族への配慮のほか、労働契約法第3条3項が仕事と生活の調和を求めていることは、労働者に生じる不利益の程度を検討するにあたって考慮されるべき事情と考えられています。このような要件に照らして、配置転換の命令が有効になされているかどうかを確認し、有効な命令に対する違反に対しては、懲戒解雇をもって臨むことも検討することができます。3最近の裁判例において、配置転換命令への拒絶を理由として、企業秩序を乱すまたはそのおそれがあることを理由とした懲戒解雇が有効と判断された事例を紹介します(大阪地裁令和3年11月29日判決)。事案の概要としては、企業が事業所の閉鎖にともない希望退職者を募る一環として転職支援等を行う面談をしていたところ、退職を希望しない労働者には配置転換を行う旨の説明を行い、配置転換の必要性を伝えていたところ、労働者から①息子が自家中毒であり、頻繁に迎えに行く必要があるほか、転居が症状に悪影響を与えるおそれがあるとの医師の診断があること、②母親の体調も不調であり、介護を要する状況にあることなどを理由に、配置転換を拒絶しましたが、使用者は、これらの事情をふまえてもなお、配置転換の必要があるとして命じたところ、これに応じなかったため、最終的には懲戒解雇に至ったという事案です。この事案における配置転換命令に至るまでの経緯の特殊性としては、希望退職者を募ってもいたことから、その説明内容が、労働者からは退職勧奨の面談と受け取られており、退職勧奨を拒否することをくり返していたことから、使用者が配置転換の説明に明確に移行したにもかかわらず、その後も説明を受けることを拒絶し続け、労働者からも①息子の自家中毒や②母親の体調にかかわる事情を説明していなかったという点があげられます。たことについて、使用者が「配転に応じることができない理由を聴取する機会を設けようとしたにもかかわらず、原告が自ら説明の機会を放棄したことによるものというほかない」として、「本件配転命令を発出した時点において認識していた事情を基に、本件配転命令の有効性を判断することが相当というべき」と判断しています。その結果、原告が複数の医師から診断書を得ており、「生活環境の変化が患児にとって心的ストレスになりうるため、症状増悪につながる可能性は否定できず、可能であるなら避けることがのぞましい」などと記載されていた事情も裁判所は考慮することなく、配置転換命令は有効と判断されました。著しく超える事情がないかを正確に把握する努力を尽くす必要がある一方で、これに対する労働者からの情報提供がない場合には、使用者が得ることができている情報のみに依拠して配置転換命令を発することも可能と考えられます。効である以上、懲戒委員会などでの議論をふまえた懲戒解雇が有効と判断されています。判決では、労働者からの情報提供がなかっ使用者としては、通常甘受すべき不利益をなお、当該裁判例では、配置転換命令が有53エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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