エルダー2023年4月号
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食文化史研究家●永山久夫2023.458FOOD初ガツオに熱狂した江戸っ子目には青葉 山ホトトギス 初ガツオ山■■口■■素■堂■■(1642〜1716)の有名な俳句で、江戸の町の初夏の風景が目に浮かんでくるような傑作です。「カツオのたたき」の知恵353江戸っ子は、初物に熱狂したといわれています。その代表といえるのが、春の終わりから初夏にかけて、江戸の町に姿をあらわす初ガツオ。たしかに、江戸っ子を熱狂させた、この藍■■縞■■の魚(カツオのこと)は、季節の到来を告げる味が爽快で、無理をしてでも食べる価値があり、それも他人に先がけて口にしなければ、自慢できません。お金持ちの食通になると、帰港する漁船から大金をはたいて買い上げ、生きたままのカツオをたずさえて、いち早く江戸まで早船を突っ走らせたというほどです。とにかく初ガツオは高価を極め、天保の時代(1830〜1844)で、1本が2両以上もしたと、当時の記録にあり、現在に換算すると、ざっと15万円くらいになるから驚きです。次のような川柳もあります。上になき 下も涙の 辛子みそ空ではホトトギスが鳴いています。その下の長屋では、男が分厚く切ったカツオの刺身に、辛子みそをたっぷりつけて食べています。ところが、そのあまりの辛さに、涙が出て止まりません。長屋の住人が食べるような安価なカツオは、生臭さが強くて、たれをたっぷりつけないと、食べられなかったのです。お金持ちは、辛子みそではなく、わさび醤油をつけて食べていました。カツオをより美味にして食べる調理法に「カツオのたたき」があります。塩をふったカツオをさっと焼き、薬味を合わせて食べる高知県の郷土料理。身に独特のくせのあるカツオを味よく食べる方法として、全国に広がりました。火で皮に軽いこげめをつけ、醤油などの調味料をかけてたたき、味をなじませてから、ニンニクや青じそ、玉ねぎ、ワケギなどを添えて豪快に食べます。カツオには、アンチエイジング成分がたっぷり。老化を防ぎ若さを保つアミノ酸バランスのよいタンパク質に、免疫力強化に役立つミネラルの亜鉛、それにビタミンD。若々しい表情の維持に役立つビタミンEなどです。秋になると脂肪ののった「戻りガツオ」となり、初夏の爽快な味とはちがい、濃厚な味わいとなります。初ガツオに辛子みそ日本史にみる長寿食

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