エルダー2023年5月号
10/68

いま、治療と仕事の両立支援が必要とされる社会的背景「治療と仕事の両立支援」については、ずいぶん社会に浸透してきたように感じます。それは患者さんの意識にも現れており、医療機関の相談窓口でも「どのように仕事が続けられるか」と仕事の継続を前提とした相談が寄せられることがほとんどです。こうした両立支援がなぜ社会的に求められるようになってきたのか、見ていきましょう。まず、医療の飛躍的な進歩が前提としてあります。研究者のたゆまぬ努力によって、新しい治療法や薬剤が続々と実用化され、かつてはむずかしいとされていた病気にかかったとしても、治療とつき合いながら質のよい日常生活を送れることが増えてきました。例えば、「検査によって明らかとなった遺伝子変異に応じた治療法を、細やかに選択できるようになった」ということがあげられます。私の知合いの肺がんの患者さんは、診断時点からステージⅣでしたが、それから10年経つ現在も、何度か治療法を変えながら仕事を続けています。図表2に示した通り、社会保障給付費は年々増加しています。高度化する医療にともなう費用も増加していますが、それによって質のよい日常を維持し、働き続けることができる患者さんがたくさん出てきているのです。せっかく医療に支えられて働くことが可能になり、かつ働く意欲も能力もあるのならば、ぜひ、その労働力を社会に還元してもらいたいものです。そのような有用な人材でありながら、病気になったタイミングで離職を余儀なくされれば、そこからの再就職の道は非常に厳しく、生活困窮に陥りかねないでしょう。突然収入が途絶え、立ち行かなくなる生活を支えるために、さらに社会保障給付するという悪循環になってしまいます。それは患者さん本人にとっても、病気になったとたんに社会の一員から排除されるに等しく、望むところではないでしょう。何のためにつらい治療に向き合ってきたのかと、生きる意味を見失ってしまうことさえあるのです。歳までの雇用を確保する措置が企業に義務づけられていますが、さらに70歳までの就業機会の確保が努力義務になっています。この年齢層と重なってくるのが、まさに病気に見舞われるリスクなのです。社会の側から「生涯現役」を求めるのであれば、人によって異なる「現役」の姿を実現できる社会環境を整える必要があります。大多数の「それなりに健康不安を抱えるごく普通の高齢者」にとって、いつ働けなくなる高齢者雇用については、現在、希望者全員6501950図表2 社会保障給付費の推移248.4537.614.60%10.00%2021(予算ベース)国内総生産(兆円)A559.5給付費総額(兆円)B24.9(100.0%)78.4(100.0%)129.6(100.0%)10.3 (41.4%)40.5 (51.7%)58.5 (45.1%)(内訳) 年金医療10.8 (43.4%)26.6 (33.9%)40.7 (31.4%)3.8 (15.2%)11.3 (14.4%)30.5 (23.5%)福祉その他B/A23.20%年金医療福祉その他20002010(平成12)(平成22)(兆円)120100806040201960(昭和25)(昭和35)一人当たり社会保障給付費(右目盛)1970(昭和45)(昭和55)1980200019801990(平成2)2021(予算ベース)2023.58(万円)100.0080.0060.0040.0020.000.00資料: 国立社会保障・人口問題研究所「平成30年度社会保障費用統計」、2020〜2021年度(予算ベース)は厚生労働省推計、2021年度の国内総生産は「令和3年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(令和3年1月18日閣議決定)」

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る