エルダー2023年5月号
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両立支援の取組みにおける企業メリットと生涯のキャリア形成か、戦々恐々としながら日々を送る生活は過酷です。ますます貯蓄に余念がなくなり、経済的にも縮小するばかりでしょう。働くことを期待される高齢者層がますます拡大傾向にあるなか、こうした社会全体を覆う不安が増大することによる負の影響は、企業にとっても決して好ましいことではないはずです。どんな取組みが期待されるか田中さんのように、年齢を重ねても治療しながら働きたいと願う患者さんが、臆することなく、ともに社会のにない手として活躍できる働き方を考えていく姿勢が企業には期待されます。具体的には、どの立場の人であっても、一定の病気休暇や休職が認められ、病気になったことを理由に契約が更新されないなどの不利益を生じさせない制度があるとよいでしょう。図表3に示したように、医療の進歩にともない治療中の患者さんの状態が変化し、「働ける」と「働けない」のボーダーラインが曖昧かつ長期化している現状に適応できるような働き方を見出していくのが、両立支援です。予期せぬ病気になって治療が必要になったとしても、仕事に対する意欲があるならば、体調と折り合える働き方を見出し、その人の持つ能力をきちんと発揮できる社会にしていくことが望まれます。そうした現状を後押しするために、2022(令和4)年より、健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されています。この改正により、一時的に就労不能の状態になっても、休養に徹するだけでなく、治療・休養しながら働くという選択肢が広がりました。上手に制度を活用し、職務遂行と体調が折り合う働き方を労使で見出してください。企業における治療と仕事の両立支援には、先ほどお示ししたような社会的なニーズがあるだけでなく、取組みによって得られるメリットもあります。う直接的なメリットであり、もう一つは高齢社員のパフォーマンス向上という、企業が恒常的に持つ課題解決につながるメリットです。つれ、働く現場からは、処遇の低下や職務転換を機に意欲が減退して十分にパフォーマンスを発揮しない社員が出てくることが、大きな課題としてあげられるようになりました。高齢社員が職務に対するやりがいを維持できないことから、周囲の社員からの高齢社員に対する役割期待の低さを引き起こし、相乗的にパフォーマンス低下のスパイラルに陥っているという要因が考えられます。が能動的に職務に取り組むモチベーションを維持することが不可欠です。そのための鍵は、職務面だけでなく生涯における生活面も含めた、長期的なライフキャリア形成にあります。いても、現時点において健康状態を維持できている社員は、なかなか当事者意識を持ちにくいものです。働けなくなることが怖いから、その一つには、人材不足への具体的な対応策とい高齢者の雇用が法整備とともに推進されるにこうした課題を解決するためには、高齢社員将来的な体調や働き方の不安を漠然と持って特集病気の治療を続けながら働ける会社へ9エルダー図表3 治療と仕事の両立支援が目ざすもの従来の働き方制限なく働ける二極化療養中(働けない)両立支援で目ざす働き方制限なく働ける労 働治 療療養中(働けない)出典: 服部文『産業保健ハンドブックシリーズ⑧治療と仕事の両立支援ハンドブック−従業員を辞めさせないためにできること』(労働調査会)働き方を調整してこの層を増やす

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