エルダー2023年5月号
18/68

治療と仕事の両立支援の仕組みとがんに特化した支援制度の概要るのではないか」、「早まって退職を決意しないでほしい」、そんな一心から、制度づくりが動き出したという。一方で、がんにかぎらず、病気などで療養する際の仕事との両立支援は、以前から個別対応で行っていることから、「あえて制度化しなくてもよいのでは」という考え方も社内にはあったという。しかし、両立支援について相談できる「健康管理室」という場が社内にあることをだれもが認知していればよいが、大半の従業員にとって当時の健康管理室は「健康診断で世話になるところ」といった程度の認識であった。「がん治療と仕事の両立支援を制度化することで、社内ポータルサイトなどを通じて、『当社にはがん治療について相談できる場があること』を多くの従業員に伝えることができます。それにより、退職をふみとどまる従業員もいるだろうと考え、制度化の取組みがスタートしました」そして、労使の議論を経て、2019(令和元)年10月、「がん治療と仕事の両立支援制度」が始動した。目的を明確にして内容を検討し既存制度でカバーできない仕組みを新設「ムラタ健康宣言」をベースにした同社の健康経営プランは、「地に足のついた健康経営」、「安全・安心な職場で従業員一人ひとりが、自分自身が健康だと実感しながら働ける環境を目ざす」ことを大事にして、健康安全活動を推進している。がん治療と仕事の両立支援制度も、この考え方がベースとなっている。制度の内容は、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(14ページ参照)を参考にしつつ、自社にフィットする制度とするため、「現場を見て、だれのための制度で、どういう支援をすることが望ましいのか、目的を明確にすることから話し合いました。当社の場合、がん治療をする従業員が、早まって退職しない状態にしていくことが目的です」と大柿さんは話す。目的を実現するために必要な具体的支援を考えるとともに、従来から運用されている療養のために使える休暇制度や健康保険の傷病手当金などでカバーできること、できないことを整理し、既存制度でカバーできていない部分を新たにつくる形で制度全体を構築していった。同社の治療と仕事の両立支援は、「早期発見・早期対応」、「療養・休職」、「復職・治療継続」2023.516図表1 仕事と治療の両立支援 全体図・意識しない受検の仕組み *必須項目 :特定健診の項目 :大腸がん・胃がん・肺がん  →受検辞退は可 *子宮頸がん・乳がんは選択式で受検・面談・フォローの充実産業医・保健スタッフが事後措置面談実施受診勧奨された従業員は、結果を産業保健職に提出・がん治療と仕事の両立支援制度 ※本文を参照・両立支援プランの作成と継続フォロー産業保健職による対個人へのプラン作成、復職後も定期フォローを実施・フレキシブルな有休制度年次有給休暇のうち16時間分を30分単位で、20回分を半日単位で取得可・療養期間の確保最大で30カ月の傷病による休職が可能(傷病の種類・勤続年数により期間は異なる)・療養に使える休暇制度多目的積立休暇制度を治療に利用できる・金銭面でのフォロー傷病手当金・付加給付を健保組合より支給(月収の76.7%)延長傷病手当金付加金(12カ月)あり、最長で計30カ月の支給GLTD制度を導入資料提供:株式会社村田製作所早期発見・早期対応療養・休職復職・治療継続

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る