エルダー2023年5月号
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満足度の高い「小さな仕事」が日本の経済社会で不可欠に坂本 少子高齢化で日本の経済や財政状況が厳しくなるなかで、高齢者にも働くことを考えてもらわないといけない局面に入っていると思いますし、また高齢になっても働き続けることを選択せざるを得ない状況になっています。多くの人が不安を抱えていると思いますし、おっしゃる通り、メディアでもネガティブにいわれがちです。そこで、普通の人たちの実態がどうなっているのかについて、ていねいに掘り下げてみようと思ったのが執筆のきっかけです。そこで、高齢者の就業実態について調べてみると、例えばマンションや寮の管理人、警備員やドライバー、販売スタッフ、あるいは接客業務など、直接価値を提供するようなサービス業に従事されている人が、非常に多いことがわかりました。デスクワーカーとノンデスクワーカーに分類して集計すると、事務や管理の仕事をしている人は全体の就業者の4分の1程度。残りの4分の3が、接客業務などで働いている人です。これまでそうした仕事がフォーカスされることはなかったのですが、実態をしっかりと見てほしいという思いがありました。坂本 りませんが、総じていえば、「労働時間が短く、仕事の負荷が少なく、ストレスもそんなに生じない。一方で収入はそれほど多くはない」という特徴があります。高齢就業者に話を聞いたり、データを見ると、「小さな仕事」に従事しているほとんどの人が満足して働いています。労働時間も短く、プレッシャーも少明確な定義づけをしているわけではあないし、自身の生活とのバランスを取りながらポジティブに働いている方々が非常に多いのです。  は280万円です。60代後半になると、平均事業者もいましたが、募集・採用における年齢制限禁止の義務化や、労働市場の人材不足が深刻化するなか、働く高齢者が急速に増えています。小さな仕事をする人が日本の経済社会に不可欠になっており、就業者数の増加にともない、経済への貢献度も高くなっています。坂本 します。平均的な会社員だった人は教育費の負担がなくなり、住宅ローンの返済も終わり、家計支出額は定年を境に減少し、60代後半時点で月32・1万円、70代前半で29・9万円と出費は減ります。一方で収入も減り、60代前半の就業者の平均年収は357万円、中央値額は256万円ですが、中央値は180万円で、これぐらいの収入でも十分に余裕のある生活ができるのです。65歳から69歳までの世一昔前は一定の年齢を過ぎた人は雇わない高齢になると家計支出額も大きく減少―著書の『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』が話題になっています。高齢者が働く現実をネガティブに報じるメディアもありますが、執筆のきっかけとは何でしょうか。―坂本さんは、そうした仕事を「小さな仕事」と名づけていますね。あらためて「小さな仕事」の定義について教えてください。円程度で十分ということも紹介されていますね。―著書のなかでは、高齢期の収入は月10万2023.52株式会社リクルート リクルートワークス研究所 研究員/アナリスト坂本貴志さん

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