エルダー2023年5月号
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そ4通りの考え方(やり方)があります(図表2)。てきた沿革をふり返ると、⑴終戦直後の混乱期から経済復興期は、猛烈なインフレに対する生活防衛の戦いがなんといっても最優先され、労使紛争も多発して、大幅賃上げによる生活給の確保が労使の大問題となっていました。⑵モノづくりによる貿易立国に成功した高度成長期に入ると、労使紛争を避ける春闘方式の枠組みのなかで毎年の賃上げと生活水準の向上が定着します。この時期に新卒採用・年功賃金・終身雇用という日本的経営の基本ができ上がりました。⑶第一次オイルショックで高度成長期が終わった後も日本経済は順調に安定成長を続け、経済大国化を果たします。日本企業は能力主義的な人的資源管理を武器に「日本の一人勝ち」ともいえる歴史的な大成功をおさめ、この時期、「職能給」と呼ばれる年功的なヒト基準の賃金制度が分厚いサラリーマン・中間層の形成に大きな役割を果たしました。⑷ところがバブル景気が崩壊し、経済のグローバル化によるデフレが進むなかで、年功的な賃金上昇に急ブレーキがかかります。新自由主義を背景とする自己責任論やリストラ、労働の規制緩和による雇用の多様化が進むなかで、図表3で、これまで日本の賃金制度がたどっ年俸制に代表される成果主義ブームが起きたりしました。成果主義はその後やや沈静化しますが、この時期を境に、賃金制度の中心は属人的な職能給から仕事基準の役割給に移行し始め、現在に至っています。⑸現状では、少子高齢化と長期のデフレ経済に苦しむ国内企業とは対照的に、世界ではデジタル経済化で大成功をおさめたGAFAM※2などの巨大新興企業が市場を席捲しています。地政学的な危機も重なり、VUCA※3と呼ばれる急速で不確実な社会変動・流動性がグローバル経済を覆い、日本は明らかに劣勢に立たされるようになりました。最近の円安もいわば国力の低下のあらわれです。どうも日本企業は経営戦略に基づく人材の確保・活用が弱いのではないか。このような反省から、従来型の日本的なメンバーシップ型の雇用人事の限界を感じられている経営者や人事担当者の間で、これからはグローバルなジョブ型雇用人事に見習い、より目的意識的に価値創造のための人的投資を強化する必要があるのではないか、という声が高まっています。次回は高齢者の賃金実態にも目を向け、日本企業のヒト基準の雇用人事とジョブ型雇用人事の比較を通して、これからの賃金制度の方向性を検討します。45エルダー図表3 日本の賃金制度の沿革とその背景時代相経済復興期1945〜54年高度成長期1955〜73年安定成長期〜バブル景気1974〜1990年バブル崩壊〜リーマン危機1991〜2010年少子高齢化〜コロナ危機2011〜2023年経済・社会の動き経済復興と朝鮮特需猛烈なインフレモノづくりによる高度成長、貿易立国経済大国化バブル景気長期デフレ、グローバル経済、中国パワーデジタル経済化、GAFAM、VUCA雇用・人事のトレンド生活防衛・労使紛争生活水準の向上、新卒採用・年功賃金・終身雇用能力主義的人的資源管理(日本の一人勝ち)賃金抑制、自己責任論とリストラ、雇用の多様化経営戦略に基づく人材確保価値創造への人的投資※2 GAFAM……Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftの頭文字を取った呼び名※3  VUCA…… Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉。不確実性が高く将来の予想が困難であることを示す言葉©株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載⑵年功給+能力給へ⑶職能給が主流成果主義・年俸制⑷職能給から役割給へメンバーシップ型の限界⑸ジョブ型・職務給の活用賃金制度の動き⑴生活給の確保(大幅賃上げ)春闘方式能力主義シニア社員のためのシニア社員のための「「ジョブ型ジョブ型」」賃金制度賃金制度ののつくり方つくり方

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