エルダー2023年5月号
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べきことが要請される」とする最高裁判例(最高裁昭和44年2月27日第一小法廷判決)が存在することから、当該判例を根拠として、別法人に対して退職金やそのほかの賃金の支払いが請求されることがあります。東京地裁平成14年10月29日判決は、法人格否認を理由とした退職金請求がなされた事案です。事案の概要は、グループ会社内において、グループ会社全体の人事・総務・経理などの間接部門を行う会社があるほか、人員の多くがグループ会社からの出向者や転籍者で占められて、順次交代されていたなどの事情がある会社において、退職金の支給がない会社へ転籍した従業員が、転籍前に勤務していたグループ会社の退職金規程に基づき退職金を請求したという事案です。裁判所は、グループ会社について、「A社とB社は、資本、人事、業務面などにおいて極めて密接な関係があり、グループの会社としてB社がA社を支配する関係にあった」としつつも、「A社は、B社とは別個独立の人的、物的組織を有し、業務内容を異にしており、両者の間で、その組織、業務内容、会社財産について混同があった事実を認める余地はない」と判断しました。その理由としては、事業の効率的運営、独立採算性の確保、経営責任の明確化などの観点から法人を設立することは不合理ではないこと、昇給の実施、賞与の支給などは別個独立して行われ、役員や幹部従業員などの重要な人材をスカウトし高額の報酬を支給していたといった事情が加味されています。他方、人事および財務を一括管理し、役員の選任、給与の決定を代表取締役が掌握し、業務執行においても権限が大幅に制約され、営業利益をグループ会社間で操作されていたことなどを理由に異なる結論となった裁判例(東京地裁平成13年7月25日判決)もあるため、グループ会社運営においては、各社の独立性を確保しておくことは重要な要素となります。人格の否認とは異なる観点から退職金の3法支払いが命じられた裁判例(東京地裁平成20年8月20日判決)があります。事案の概要としては、X社から分離独立したY社に勤務する従業員が、X社の退職金規程が適用されることを前提に、退職金の支払いを求めたという事案です。Y社は、「X社のグループとして一体として経営されていたと思われ、X社の就業規則等をY社においても利用されていたことは十分考えられる」としたうえで、過去にY社において作成されたとみられる退職金一覧表にY社の従業員として原告を含むY社の従業員らについて、X社の「従業員就業規則」、「賃金規程、退職金規程別表」によって算出された退職金額から既払額を控除した金額で記載されていたことがあったことや、その記載された金額を解決金として和解が成立したほかの従業員が存在していたことなどから、Y社において、X社の従業員就業規則等によって、退職金額を算出していたとされました。結果として、Y社は、X社の就業規則等に基づき、退職金を支払うことを命じられることになりました。を持たせるために、就業規則を同じ内容で届け出ることなどがあります。その場合に、退職金規程について、子会社では退職金を支給しないにもかかわらず、親会社の就業規則のまま「退職金については、退職金規程に定める」といった記載を維持してしまうようなケースも見受けられます。たとえ、子会社における退職金規程を設けていなかったとしても、前述の裁判例のように親会社の就業規則や退職金規程を根拠として、退職金の支払いが命じられることがあり得ます。する予定があるとしても、現時点では支給しないのであれば、退職金を支給しないことを明確に記載しておくことが適切でしょう。働条件を不利益に変更することは、原則としグループ会社において、就業規則に統一感そのため、たとえ、退職金規程を将来作成ただし、グループ会社間で出向する際に労関連会社の就業規則が適用された裁判例47エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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