エルダー2023年5月号
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だれの間でいかなる責任が生じるのかを整理しておきましょう。まず、加害者と被害者の間では、不法行為に基づく損害賠償責任が加害者に発生します(民法第709条)。したがって、加害者が、被害者との間で被害に応じた賠償額を合意して、示談による解決を行うことは、原則として、当事者の自由です。一方で、会社としては、加害者が自社に在籍している労働者である場合で、職場において生じたセクハラについて、使用者として、加害者と連帯して、被害者に対する損害賠償責任を負担することになります(民法第715条)。連帯して責任を負担するということは、加害者と被害者の示談による影響を会社も受ける可能性があるということです。示談書においては、加害者と被害者の間で、一定額の支払い合意に加えて、当該支払い債務を除いて債権債務が存在しないことや当事者間における事実の認識およびそれに対する謝罪や被害者からの宥■恕■の意思などが記載されることがあります。たしかに当事者間での解決にはつながるのですが、会社としては、加害者と同額の使用者責任を連帯して負担する立場として、いかなる条件で支払いに合意したのか関心は生じます。また、不合理に高額な示談を成立させた場合に、加害者が示談書に反して支払いを怠ったときに会社に対して同額を支払うことを迫られても会社として■■はこれに応じるわけにはいかないでしょう。とはいえ、当事者からの聞き取り調査も行っていなければ、示談の内容が不合理な金額であるか判断する材料がなく、いかなるセクハラが行われたのか不明なまま支払うべき額を検討することもできなくなってしまいます。したがって、職場におけるセクハラにより生じた損害賠償責任を会社が連帯して負担する可能性がある以上、当事者のみで解決すればよいというものではなく、会社も関与すべき状況にあるといえます。3損害賠償責任に関与する以外にも、会社としてハラスメント防止に必要な再発防止策を検討する必要もあります。再発防止策検討の出発点として、ハラスメントに関する事実関係を把握しておくことは会社の関心事であるといえます。再発防止策の典型的な方法としては、加害者に対する懲戒処分や厳重注意などにより、同一人物による同様のハラスメント行為を防止することがあげられます。ところが、当事者間で示談したのみでは、そもそも、懲戒処分が必要なほどの加害行為が行われていたのか、いかなる懲戒処分や厳重注意が相当であるのかなどを判断することができず、会社として適切な再発防止策を実施することができなくなります。たっては、会社としても事実関係の調査を慎重に行う必要があることから、当事者以外から把握した事実のみをもって行うこともむずかしく、やはり当事者からのヒアリングなどを行う必要性は高いと考えられます。当事者が会社への報告を拒むような場合には、当事者からのヒアリング内容については社内において守秘することを前提に、当事者のみで解決するのではなく、会社を交えて事実関係の整理に協力するよう求めることが適切と考えます。イバシーに対する配慮も必要であるため、懲戒処分を行う場合であっても、事案の内容をみだりに公表することは控える必要があると考えられます。したがって、懲戒処分の公表という形での再発防止策を講じることがむずかしくなると考えられますので、全体的な研修や教育を再度実施するなかで、あらためて注意喚起を行うといった工夫が必要になるでしょう。セクハラに関する処分の必要性の検討にあただし、セクハラについては被害者のプラ再発防止策について49エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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