エルダー2023年5月号
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しずつカットすることで、毛束をつくりやすくする技法のこと。短い毛が長い毛を押す性質を利用することで毛束がまとまりやすくなり、髪にボリューム感を出したり、毛先を流したい方向に流しやすくする効果がある。「お客さまがサロンを出たときに、髪型が決まっているのはあたり前です。当店では、スライドカットなどの技術を駆使して、お客さまが翌日以降も、ご自身で簡単に同じようにセットできるような施術を目ざしています」また武藏さんは、理容店オーナーの業界団体である全国理容生活衛生同業組合連合会(全理連)の中央講師に任命され、全国各地に赴き後進の育成にも努めてきた。これらの功績が認められ、「令和4年度卓越した技能者(現代の名工)」に選出された。「『自分でいいのか』という思いはありますが、理容師や講師として、これまで大切にしてきた人との出会いの積み重ねが、今回の受章につながったと考えています」子どものころは「プロ野球選手か理容師で日本一」という夢を作文に書いていた武藏さん。高校3年生のとき、知人の誘いで外資系企業への就職を目ざしたが、ある日、理容師の父の寂しそうな背中を目にし、理容学校に進学することを決意。そして理容学校を首席で卒業した。師と仰ぐ人の店で修業を始めて2年9カ月が経ったとき、父が倒れてしまう。当時は一人前になるまで最低でも5年が必要といわれていた時代。まだ十分な技術も身につかないまま、後を継がざるを得なくなった。「すると、父の代の常連客がどんどん減っていき、自分の技術のなさに打ちのめされました。当時は『なぜこんな境遇に遭わなければい若いころの苦労をバネに全国トップ3にのぼりつめる 62顧客の要望に沿った髪型に仕上げるために、コミュニケーションを欠かさない。常連客からは、技術はもちろんのこと、その人柄が高く評価されている「理容師は人の心に触れる、人にしかできない仕事。だからこそお客さまから最後に感謝の言葉をいただける。私にとっては天職です」

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