エルダー2023年5月号
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(撮影・福田栄夫/取材・増田忠英)けないのか』と思ったものです」しかし、「このままではいけない」と一念発起し、近所のコンビニエンスストアの若いスタッフに声をかけ無料で髪を切らせてもらったり、さまざまな勉強会に参加するなどして練習を重ね、懸命に腕を磨いた。また全理連の理容競技大会にも参加し、5年で千葉県の代表になり、さらに5年かけて全国大会で賞を獲るに至る。夢だった日本一にこそ届かなかったものの、2位、3位を計4回獲得し、全国に名が知れ渡るようになった。「ふり返ってみれば、逆境に置かれたことで人の温かみがわかるようになり、自分自身が成長できたと思います」そして、44歳からは講師業にも力を注ぎ、全理連の名誉講師となった現在も、地元・千葉県内で全国競技大会出場を目ざす選手の総合コーチとして、自身の技術を実際に見せながら指導を行っている。自らの経験から、「若いころの苦労は買ってでもしてほしい」と、若い世代を鼓舞し続けている。「私が若かったころは、技術を磨く過程で多くの失敗も重ねてきました。その経験を日誌に書きとめてきたことが、若い世代を指導するうえで大いに役立っています。全国大会の競技は約35分。その時間で競ったら若い世代には敵いませんが、10分だけの勝負なら、まだまだ負けません(笑)」2人の息子も理容師になり、いまはそれぞれ別のサロンで店長を務める。近い将来、3人で一緒に店に立つことを楽しみにしている。「これからも人との出会いを大切にしながら、この店を100年以上続けることが目標です」HairMUSASHITEL&FAX:047(339)20402人の息子とともに店を100年以上続けたい vol.32763エルダー祖父の代から90年続く「Hair MUSASHI」。女性客も多く約3割を占める東京パラリンピック選手村で理容師ボランティアを務め、選手たちから喜ばれた髪の見えない部分を、はさみを滑らせながら短くする「スライドカット」技法理容師で妻の厚子さん(右奥)、撮影のモデルを務めた姪の歩あゆみ望さん(手前)と普段使っている道具の一部。はさみは特定メーカーの製品を愛用している

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