食文化史研究家●永山久夫23エルダーFOOD355炊きたての白いご飯があると、日本人なら無性に食べたくなるのが卵かけご飯。ある年齢以上になると、昭和への郷愁を感じて、何ともせつなくなります。貧しく乏しかった時代の象徴的な食べ物が、卵かけご飯でした。一個の生卵を家族で分けあって食べていた思い出がよみがえるのです。大きなどんぶり鉢に一つの生卵をポトンと落とし、醤油でのばし、三人、四人もの兄弟のご飯のうえに、少しずつたらして食べていたあのころ。貧しかったが、幼い者への思いやりがあり、みんな心の底から明るく、いつも「ワッハッハ」と笑っていました。日本人は、魚であれば、刺身を好みますが、生で食べるわけですから、焼いたり、煮たりすることによって失われる栄養成分のロスがまったくありません。したがって、生食は栄養効率も資源効率も高いのです。ご飯に生卵をかけて食べるのも、考えてみれば卵の刺身のようなところがあります。卵は昔から「精のつく食べ物」として重宝されてきました。昔は病気見舞いというと、もみ殻入りの箱に卵を詰めて持参したものです。卵には、ビタミンC以外の栄養成分がことごとく含まれており、ほぼ完全食といってもよいでしょう。特に、卵のタンパク質は優秀で、アミノ酸スコアは100と満点です。タンパク質は、体細胞の若さを保ち、筋肉を強化するうえで欠かせません。侍ジャパンで活躍した大谷翔平さんも、ゆで卵を一日に何個も食べているそうです。卵の黄身に多いレシチンは、物忘れを防いで記憶力をよくし、学習能力や創造力を高める成分として注目されています。レシチンが、脳のなかでそのパワーを十分に発揮するためには、ビタミンB12が欠かせませんが、このビタミンも卵の黄身にはたっぷり。卵は長生き時代、情報化時代には、理想的な食材といってよいでしょう。昭和の思い出の味、卵かけご飯をどうぞ。昭和の味がする卵かけご飯ゆで卵は栄養豊富な完全食日本史にみる長寿食卵かけご飯でがんばった昭和時代
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