エルダー2023年6月号
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ということになります。最後に実施主体の問題があり、事業主が実施主体となっている場合には、企業年金制度自体が労働契約に関する労働条件の一部となる一方で、各種基金が実施主体となっている場合、労働条件とはならず、当該基金が定める約款や改廃条項の定めの解釈などを検討する必要があります。なお、退職者の年金に関する減額も改廃条項の定めなどに基づいて判断されることが一般的とされています。2就業規則の不利益変更という方法によるか(労働者に適用される外枠方式の事業主主体の企業年金の制度変更)、年金の支給に関する約款や規程が定める改廃条項(退職者に対する制度変更や外部の基金が主体となっている企業年金の制度変更)のいずれにおいても、ある程度考慮される内容は類似しています。ただし、後者の方が改廃条項の個別性(考慮すべき事情は明示された内容も重要となる)に左右されやすいため、その点には注意が必要です。不利益に変更するにあたっては、何らかの事情があると思われますが、減額・廃止の必要性は重要なポイントになります。例えば、運用実績が予定利回りを下回っていること、過去に定めた給付水準を現在の経済情勢では維持しがたいこと、母体となっている企業の経営を圧迫していることなどが事情として考慮されます。特に、母体企業の経営を圧迫することで、現在の在籍労働者の労働条件が悪化することにつながっていたり、経営への影響が続けば破綻に向かう恐れがあるような場合には、そもそも年金を受給する権利自体が絵に描いた餅になってしまうこともあるため、経営改善策の一環として、企業年金制度の変更の必要性が肯定される場合があります。次に、変更内容の相当性も考慮されます。上記のような必要性があるとしても、それに対応するバランスのよい変更内容とする必要があり、均衡を欠く場合には変更が有効とはなりません。この相当性については、変更内容自体が適正であることや、段階的な変更、経過措置の導入、代償措置の適用などによって、不利益性を緩和するような方法も考慮されます。さらに、手続きの相当性が考慮されることになります。例えば、対象者となる従業員や退職者に納得してもらうための説明資料の作成、その説明を行うための会合や労働組合との協議の場を設ける、反対者の意見がどの程度現れていたかなどが考慮されます。年金の改廃条項などにおいては、受給者の3分の2以上の同意など明示的に割合が示されているケースもあるため、その場合は手続きの相当性だけではなく、同意を得た割合がこれを超えるかどうかという問題も生じます。3企しておきます。まず、自社が事業主体となっている年金制度の変更に関しては、大阪高裁平成18年11月28日判決があります。当該裁判例では、年金について定めた規程について、「福祉年金契約については、年金規程が福祉年金制度の規律としての合理性を有している限り、被控訴人の各退職者において、年金規程の具体的内容を知っていたか否かにかかわらず、年金規程によらない旨の特段の合意をしない限り、福祉年金規程に従うとの意思で年金契約を締結したものと推定するのが相当であり、その契約内容は、年金規程に拘束されると解すべき」として、退職者も含めて拘束される事実たる慣習になっているとして拘束力を認めました。また、改廃条項においては、「経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった」場合に労使協議を経て変更することができるとされていたところ、経済情勢には当該企業自身の状況を含むものと解釈しつつも、その必要性に対して変更の内容が最低限度のものであるという相当性が求められるとされました。結論として、給付利率を一律2%引き下げる必要性があり、相当な業年金制度の変更に関する裁判例を紹介改廃のポイント裁判例の紹介43エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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